日本脳炎ワクチンの接種はどうしたらいいでしょう?

厚生労働省 「日本脳炎の予防接種」に緊急勧告

5月30日付けの各紙は、「日本脳炎の予防接種中止」という記事をのせています。

シーズンを前に、接種をどうしたらよいか悩まれているお母さん方も少なくないことでしょう。

現在、日本脳炎(日脳)のワクチンは予防接種法で「定期接種」として実施され、接種を受けることが努力義務となっています。

今回の措置は、山梨県の中学生が接種後に「急性散在性脳脊髄膜炎(ADEM)」という重い神経障害をきたした可能性が高いという理由によるものです。

厚生労働省は、5月30日、市町村による日脳予防接種の「推奨」を中止するよう求める緊急勧告を発令しました。

これによって接種が全く受けられなくなったというわけではなく、感染の恐れが高いと考えられる人、流行地への渡航や本人と保護者が希望する場合などには、説明と同意を得た上で公費負担による接種は継続することが認められています。

いずれ副作用の少ない「組織培養法によるワクチン」が実用化された場合には、接種の再開が期待されることになるでしょう。

急性散在性脳脊髄膜炎(ADEM)は、日脳ワクチン100万回の接種に1回程度の割合で発生すると考えられていますが、ワクチンとの確定的な因果関係や、どのようなメカニズムで起こるか、どういう体質の人に起こりやすいかなど詳しいことは分かってはいません。新聞報道によれば、91年以降、予防接種後にADEMを発症した例が14例あり、うち5例が重症とのことです。

平成15年度でみるとADEMが疑われた症例は6例で、約70万接種に1回の発生、最近10年間平均では200〜250万接種に1例で、厚生労働省は「通常の副反応の範囲内」という見解をとっています。

年間400万人以上が接種を受けているといわれる日脳ワクチンですが、マウスの脳組織を材料として高度に精製、不活化した上で製品化されているため、ワクチン内に残留したマウス脳に由来する微量の蛋白抗原がADEMの原因になる懸念が残ります。ここに日脳ワクチンが特別視される理由があるとも言えるのです。

最近のわが国における日本脳炎の患者発生率は極めて低く66年以前には全国で年間1,000人を超す患者が出ていたものの、03年は2人、04年は4人で、発症年齢も高齢者に偏る傾向がみられます。

日本脳炎は、人から人へと直接感染することはなく、ウイルスに感染した豚の血を吸ったコガタアカイエカに刺されることによって発症し、高熱、意識障害、マヒなどを起こす恐ろしい感染症です。しかし、このウイルスをもった蚊に刺されたからといってすぐに日本脳炎になるものではなく、感染者の数百人から1000人に1人が脳炎を起こすにすぎないと考えられています。ただひとたぴ発病すると死亡率は15%と高く、たとえ助かっても半数以上の人はマヒなどの後遺症に悩むことになります。

問題は、このワクチン副反応の発生率をどう考えるか、患者の発生率との兼ね合いで接種は妥当なものかと言うことでしょう。

ワクチン接種率の向上、エアコンの普及、豚の疫学管理の徹底などによりウイルスの伝播は確実に減ってはいますが、西日本を中心にウイルスの伝播はまだみられ、東南アジアではまだまだ多数の患者が出ているという現状が残されています。

さらに厄介なのは、西ナイル熱の脅威です。

西ナイル熱ウイルスは、日本脳炎ウイルスと同じフラビウイルス科に属しています。

感染してから発病するまでの潜伏期は通常2〜6日、発病すると高熱、頭痛、筋肉痛、発疹などの症状のほか、高齢者などを中心に感染者の1%は重症化しては脳炎を併発し、けいれん、意識障害など日本脳炎とよく似た症状をきたすことがあると言われています。

「西ナイルウイルス感染症」はアフリカやヨーロッパの風土病でしたが、数年前から米国に広がり、03年には約1万人が感染して264人が死亡しています。

西ナイル熱は、ペットとして密輸された野鳥がもっていたウイルスが、その鳥の血を吸った蚊によってニューヨークのカラスや動物園の鳥獣に感染し、それが人に広がったのではないかと推定されています。  

日本には存在していませんが、まだ患者の出ていないハワイで感染者が発生すると日本上陸は時間の問題と考えられています。

このような事態に備えて、日本では各空港周辺の蚊撲滅に取り組んでいますが、昨年9月、大阪府では全国初となる対応指針が策定されました。

西ナイル熱脳炎の症状は、日本脳炎との鑑別はむずかしく、また日本脳炎のワクチンは西ナイル熱には効かないと考えられています。

日本脳炎ワクチンの接種を受けている人ならば、将来、夏に脳炎を発症した場合にはまず西ナイル熱を念頭におくことが必要になるというように、日脳か西ナイル熱のどちらか分からないというまぎらわしさはある程度弱められることになるでしょう。

西ナイル熱ワクチンが実用化されるまで、こういった意味での日本脳炎ワクチンの効用は無視できるものでもないように思われるのですが。

では日脳ワクチンを受けるかどうか、どうすればいいのでしょう?

重篤な副作用が70〜100万回の接種に1人の割合で起こるといわれても、許容範囲を超えていると考える人もおられるでしょうし、それくらいなら予防注射のメリットのほうを評価して受けるという人もいるでしょう。

ほかの予防接種でも、何か問題が起こった時には同じような悩みが付きまといます。

自分の子どもならどうするか、そのようなこたえ方をする小児科医も少なくはないでしょう。子どもを連れて海外に旅行をされる家族も少なくない時代です。日本脳炎はアジアモンスーン地域に常在しており、従来報告がなかったオーストラリアなどでも発生をみるようになって流行地域が拡大する傾向にあります。このように、感染症の発生状況一つとってみても国内事情だけを考慮して結論をくだせる時代ではなくなってきています。

厚生労働省は、

@     定期の予防接種においては、現行の日脳ワクチン接種の積極的な勧奨は行なわない

A     接種については、事前にその効果と副反応を説明し明示の同意を得たうえで行なうことは差し支えない

という見解を発表しています。

 蚊にさされないようにすることがまず先決ですが、それとて限界があります。私ならばわが子に日脳ワクチンを接種すると答えるでしょう。

 参考までに、日本脳炎ワクチンの接種スケジュールを記載しておきます。

1期 基礎免疫 : 定期接種では生後6ヶ月以上 90ヶ月未満の者 (標準として3〜4才)

              初回接種  1〜4週の間隔で 2回皮下接種      

              追加接種  初回接種後おおむね1年を経過した時期に接種

2期      9歳以上 13歳未満の者 (標準として小学校4年生)

3期     14歳以上 15歳以下の者 (標準として中学校2年生) 

       予防接種の有効期間は4年で、成人に達するころには効果が切れると考えられています。




参考 : 日本脳炎とワクチンに関する検討

 日本脳炎に関する専門家ヒアリング会議   厚生労働省  2004年7月

 予防接種に関する検討会中間報告      厚生労働省  2005年3月

 予防接種に関するQ&A集           社団法人 細菌製剤協会編 2004年9月



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