新型インフルエンザをめぐる動き


 厚労省が1114日に公表した「行動計画」には、新型インフルエンザの治療薬として有効とされる「タミフル」の備蓄について述べられています。

国と都道府県に1,050万人分、医療機関などの市場流通分400万人分、計2,500万人分25千万カプセル)の備蓄を来年度中に目標達成することが決められました。

 これは、新型インフルエンザが流行した場合、最悪2,500万人が感染すると予想されているため、1人につき1日2カプセル×5日間で10カプセルが必要という計算に基づいて算出されています。

 しかしこれでは少な過ぎ、最低3,200万人分の備蓄は必要という意見もあります。

 しかし都道府県備蓄分に関しては、1120日の毎日新聞によれば「達成15,800人分で0.15%」、24日の朝日新聞では「3万7千人分、0.4%」にとどまるというさびしい数字で、この先スムーズに備蓄が進められるとは到底考えられない状況になっています。

 その理由として財政難が挙げられており、タミフルの薬価は1カプセル364円であるため総額3822千万円が必要となるためです。

 予算面の問題ばかりではなく、薬の流通機構は複雑なため、国や都道府県がタミフルを発売元の中外製薬から直接購入することは不可能で、卸業者が介在するために価格交渉に時間がかかることもネックになっているようです。

タミフルの唯一の製造元スイス・ロッシュ社では自社生産能力を増強し、06年末までに年産3億カプセルとする予定です。

また鳥インフルエンザ流行地には300万カプセルの無償供与も決定されています。

昨シーズンに全世界で使用されたタミフルの実に76%は日本で消費されたと言われるくらいで、欧米では余り使用されてはいなかったのです。

わが国の実績では毎年、1,200万人分が準備され、流行後の残量が約400万人分となるので、これが民間備蓄に回されることになります。

備蓄の国際競争が始まってからは、各国が先陣を切って備蓄に走りタミフルは極端な品薄状態になっています。

先進各国の備蓄計画によれば、米国8,100万人分、英国1,460万人分、カナダ1,600万人分、豪州480万人分など、これだけで1億1,640万人分が必要ということになります。それに中国を除くアジアの主要国だけでも合わせて130万人分、日本が2,500万人分となると最低15億カプセル以上が必要で、需給状態がいかに逼迫しているかがお分かりになると思います。

ロシュ社では、現在150を超える大手医薬品会社や政府当局とライセンス交渉が行われているそうですが、交渉が難航し、一部では合意前に類似薬の生産に踏み切ろうとする動きも見られるくらいです。

タイ、ベトナムなどのアジア各国はタミフルの備蓄拡大を進め、ロシュ社とのライセンス交渉を進めて自国生産を模索しています。

ベトナムは人口が8,200万人、鳥インフルエンザで既に42人の死者を出しており、ロシュ社とのライセンス生産に正式合意し、早ければ年明け早々に自国生産を開始予定。保健省は民間業者間のタミフル売買を禁止しました。

中国では、上海医薬集団がロシュ社からの技術供与で生産を決定。中国政府はロシュに対して中国国内でのタミフル販売を原則禁止し、在庫は衛生省で一括管理。

台湾当局は、WTO(世界貿易機関)協定で認められている知的財産権よりも公衆衛生上の利便を優先する「強制実施権」を発動して独自にタミフルの生産を始めることを決定、ロシュ社はこれに反対(1126日)。

タイは独自にタミフル類似薬の生産を無許可で開始する意向を表明。

現在の問題点を整理しますと、

@新型インフルエンザはいつ世界的大流行(パンデミック)が起こっても不思議はない状況にあります。現在はフェ−ズ36の状態にありますが、4に進むとパンデミックの6まで進むのは意外と早いものと予想されています。

WHOによるシミュレーション(フィクション)では、20051226日にパンデミック宣言が出されるというのですが。

Aパンデミックになれば、日本国内でおよそ2,500万人の感染者と、53200万人の入院患者、1764万人の死者(2%の死亡率)が出るものと推計されています。

人口の25%がかかるとすると3,200万人になりますから、これらの数字は過小評価されすぎているようにも思えるのですが。

B 現在流行中の鳥インフルエンザ(H5N1)にかかった人の死亡率は約50%に及びますが、これはウイルスの毒力そのものよりも免疫細胞から分泌される免疫物質「サイトカイン」が過剰になって暴走する「サイトカイン・ストーム(嵐)」と呼ばれる現象によるものと考えられています。

   今のH5N1型はまだ人から人には感染しにくい状態ですが、たとえそのような事態になってもサイトカイン・ストームが起こらない限り死亡率が50%になるようなことはなく、2〜3%におさまるのではないかと推測されています。

C新型インフルエンザが爆発すると、流行はおおよそ6〜8週間続き、いったん沈静しても、数ヶ月後に再流行する危険性を秘めています。

D新型インフルエンザワクチンを製造し接種するには最低6ヶ月が必要で、大流行の初期には間に合わないことになります。

E有効な治療薬は2,500万人分の備蓄計画が立てられていますが、余り進んではおらず、2、3年かけても達成は不可能と考えていいでしょう。

F備蓄されたタミフルをどのように配分し使用するのか、明確なポリシィやルールが確立され周知されていないため、大流行になれば、治療薬をめぐっても未曾有の混乱が予想されます。

G世界各国や、国、都道府県の備蓄計画の影響を受けて、今シーズンの通常のインフルエンザ用のタミフルは極端な不足が予想され、各地で混乱が起きることが予想されます。



鳥インフルエンザ トルコまで拡大 2006.1.24追記

トルコH5N1型トリインフルエンザの人への感染が拡大、1月18日までに感染者は21人になり、既に4人が死亡しています。感染者のうち、2人を除いてすべて10代以下の子どもだそうで、H5N1型に感染して死んだ鶏に触って感染するケースも多く、100万羽以上の鶏類が処分されたと伝えられています。

これまでとは異なり、東南アジア・中国以外で鳥インフルエンザが確認されたという点に注目する必要があります。

トルコは「アジア、ヨーロッパとアフリカが交差する地域」であり、中国からシベリアに運ばれた鳥型ウイルスが、シベリアからは別のルートでトルコに運ばれた可能性があるからです。

トルコで感染が広がるにつれ、トルコ東部や中部から欧州との接点であるトルコ最大の都市イスタンブールまで感染は拡大している上、トルコから欧州には年3,500万jの鶏肉が輸出されており、欧州各国はトルコからの鶏肉や羽毛の輸入に神経を尖らせています。

 中国では昨年末までに7人の患者が報告され、うち5人が死亡しています。そして1月9日には8人目の感染者(6歳の少年)が報告されていますが、症状は安定しているとのことです。

 中国の遠隔地・地方での流行状況が明らかでないことや、地方政府にとって不都合な報告はなされないことがあるなど、情報の把握と公開に難点があることに不安が残されています。

 中国全土には、140億羽以上の家禽が飼育されているといわれ、感染の疑いのある家禽1千万羽以上が処分されたうえ、20億元(約280億円)の対策費を投じて、ワクチン接種などの対策が講じられているそうです。

WHOによると、鳥インフルエンザの人への感染は、10日現在までで

6カ国147人、死者は78人に及んでいるとのことです。


 新型インフルエンザ早期対応に関する東京会議」 開催される

 1月1213日に東京で、「新型インフルエンザ早期対応に関する東京会議」が、鳥インフルエンザの被害に悩むアジア各国をはじめ、世界の22ヶ国が参加して開かれました。

 新型インフルエンザ発生の早期発見と発生後2〜3週間以内の封じ込めが対策の柱になりますが、そのためには即応体制を整備し、患者発生の監視網や隔離の徹底、移動の制限、治療薬の配備や緊急輸送などを各国が協調して推進することが重要になります。

 提言では、早期対応能力の強化のほかに、(1)対応手順マニュアルの作成、(2)検査に必要な設備の強化、(3)各国の研究機関のネットワークの強化などが盛り込まれています。

今回の会議では、このような体制整備の必要性が再確認されましたが、日本は新型発生時には、中国などアジア各国に55万人分の治療薬(タミフル)提供など約1億3千5百万jの経済協力を表明しています。

また、タミフルを製造しているスイス・ロッシュ者も2006年には1億5千万人分を製造するという増産体制をとることを決めています。

また、1718日には、北京で鳥インフルエンザ対策の資金確保のための国際会議が開かれ、各国政府や国際機関から総額19億ドル(約2千2百億円)の資金拠出が表明されています。

また、H5N1型ウイルスがトルコまで南下しているという事実から、アフリカ大陸に感染が広がる懸念が強まっています。

もしそうなれば、監視が徹底できず初動態勢がとりにくい上、各国間の協調も難しいという問題など、新型発生の危険性をはらんで極めて重大な結果を招きかねないという警告が発せられています。



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