土用の丑の日 ピンチ

                                                     2012.7.10

夏バテにはウナギ!

石麻呂にわれもの申す夏痩せに よしというものぞ武奈伎(ムナギ)とりめせ

                          ――大伴家持(万葉集)

天然のウナギは胸が黄色で、胸黄−ムナギがウナギの語源とも言われています。

今月27日は 「土用の丑(うし)の日」。ウナギ屋さんはかきいれどきですが、ウナギにとっては迷惑この上ない厄日。

土用は立夏、立秋、立冬、立春の前18日間を指し、立秋前の土用のうち「えと」の「丑」に当たる日にウナギを食べる習慣が根付いてきたようです。丑の日までまだ間があるのに、新聞やテレビにはウナギに関する話題がしばしば登場します。

活ウナギの高騰で庶民の口には入りにくいだろうというのです。

 江戸時代、土用の丑の日に「う」の字のつくものを食べると夏負けしないという信仰があって、うどん、梅干、うりなど「う」のつくものなら片っ端から・・・。

ところが、ウナギだけは値が張り敬遠されがちだったため、困ったウナギ屋が文学者でもありエレキテルでも有名な蘭学者の平賀源内に相談したところ、源内、一計を案じ引き札(今でいうチラシ)に「本日土用丑の日」と大書したのが大当たり!

以後、土用の丑の日にはウナギを食べる習慣が定着した。真偽のほどはともかくとして、土用の丑の日が近づくと決まって紹介される逸話です。

古よりウナギが夏の滋養強壮に用いられていたことは万葉集を引くまでもありませんが、ウナギは脂肪分やビタミンADなどの脂溶性ビタミン類も豊富で、目や皮膚・粘膜を健康に保つとともに免疫力も高める栄養満点の食べ物なのです。

特に脂ののった秋口のウナギは一番おいしいともされています。

ウナギに限らず、ウナギと同じ「ウナギ目」に分類される「あなご」や「ハモ」、コイ目ドジョウ科に属するドジョウなどの「にょろにょろ魚」は総じて滋養豊かで、夏痩せにはもってこいの食品といえそうです。

 今年に限らず、暑くなるとウナギの話題が登場するのはなぜでしょう。

養殖ウナギの元になる「シラス」が不漁なうえ、日本の消費量の8割を占める輸入ウナギも先細り、ダブルパンチで十分量のウナギの確保難しく店頭価格も高騰しているからと言えそうです。

2007年にはワシントン条約締約国会議で、ヨーロッパウナギを絶滅の恐れのある種として輸出規制の対象に加えることが決められ、EU欧州連合)も域内のヨーロッパウナギの稚魚(シラス)の漁獲量を2013年までに60%減らすことで合意。

中国は欧州産シラスを輸入し養殖、加工して日本に輸出、今や国内消費量の約2/3を占めるまでになっていました。ところが2007年の6月に、アメリカが輸入した中国産ウナギから発ガン性物質との指摘もある使用禁止の抗菌剤(マラカイトグリーン)が検出されたため、わが国でも取り扱いが急減し、この年の販売量は例年の1〜2割にまで落ち込んだのです。

ここ3年のシラスウナギの不良は乱獲と環境の変化によるものとみられており、2010年の漁獲量は9.2dと記録的な不良。それが今季まで尾を引いたかっこうになっているようです。

今や高嶺の花となった「ウナギ」ですが、暗い話題ばかりではなさそうです。

ウナギの生態は長い間ナゾに包まれていた部分が多く、食卓に上るウナギの99%は、天然の稚魚(シラスウナギ)を捕獲して養殖し成魚に育てられています。

2003年、独立行政法人水産総合研究センター養殖研究所は、世界で初めて「卵から成魚まで完全養殖する」ことに、次いで2010年には生まれたばかりの仔魚のエサの特定に成功して完全養殖に成功したと発表。

40年余り世界中で取り組んできたものの厚い壁が立ちはだかっていた「完全養殖」=「人工孵化ウナギから2世代目を誕生させ、卵から稚魚→成魚→産卵→孵化に至るという画期的な偉業が成し遂げられたのです。

ニホンウナギは、日本列島から2000`も南に離れたマリアナ諸島沖で生まれ、海流に乗って東アジアにたどり着くことは2005年に東京大学大気海洋研究所の塚本教授らのグループによって解明されていました。さらに昨年7月には、塚本教授 らがマリアナ諸島沖の西マリアナ海嶺で天然のニホンウナギの卵約150個の採取に成功、ナゾ多きウナギの産卵や生態の解明につながる可能性のある成果を得たのです。

しかし、このように産卵場が特定されても、卵から孵化し透明で柳の葉のような形をした「幼生(レプトセファルス:ウナギの赤ちゃん)」が、どのようにして稚魚(シラスウナギ)に成長するかはベールに包まれていたのです。

今回の偉業で産卵環境の解析が進めば養殖によるウナギ量産化への道が開かれることになるでしょうが、問題はコストがかかり過ぎること、養殖ウナギは9割以上がオスになることで、安値で安定供給するにはまだ十数年はかかると考えられているようです。