遺伝子検査 是か非か?

2016.5.17

 究極の個人情報と言われる「遺伝情報」、その解析技術の進歩によって遺伝子検査や遺伝子診療が盛んになり、胎児の染色体異常の「新型出生前診断」、遺伝カウンセリング、腫瘍の遺伝子精査による最適な治療の選択などに応用されつつあります。

米女優アンジェリーナ・ジョリーが遺伝子検査の結果で乳ガンのリスクが高いと分かり(ガン抑制遺伝子BRCA1の先天的な異常で乳ガンや卵巣ガンなどの「家族性腫瘍」の発病リスク増加。ジョリーさんの母親も若くして乳がんと卵巣がんを発症)予防的に乳房を切除したのが話題を呼び、遺伝子検査は一般の人々にも身近な存在となって来ました。

 ある病気が発症する将来リスクや実際にかっている可能性を判定する血液検査を初めする事業が進み、がんや生活習慣病の発症リスクを予測する「遺伝子ビジネス」が台頭、遺伝子検査事業に参入する民間企業も少なくありません。

検査は、インターネットを通じて数千〜数万円で検査キットを求めて唾液や口腔粘膜などを採取して送るだけで、ガンや糖尿病になるリスク、太りやすさなどの遺伝子情報が解析される仕組みとなっています。

簡便さと病気予防への期待などから市場は拡大して海外企業の仲介も含めると1000社に上るものの、中には「性格診断とか子供の才能判定」などを謳い文句に科学的根拠の薄い信頼性に疑問符のつくサービスも少なくないため、業界団体(NPO法人・個人遺伝情報取扱協議会)独自の「認定制度」の創設への動きも見られます(271019日、毎日)

日本人類遺伝学会も、この種の検査について「科学的根拠や有用性が確認されていない」として、国による監視体制の早急な構築を提言しています()

人間一人当たり約60億のDNAから成る遺伝情報全体の解析だけではなく、生活環境要因まで含めた膨大な情報の統計学的解析をしないと予測困難な「多因子疾患」の検査が商品として販売されていることへの疑問、情報の漏えいなどによる遺伝差別の恐れ、遺伝に対する正しい教育と多様性を認める土壌のなさから起こる国民の誤解などを問題視し、厚労省の関与の推進、認可制や罰則規定などを盛り込んだ法整備が急がれるとする意見も見られます(2719日、産経)

毎日新聞は42日の紙面で、大手生保の明治安田生命保険が人の遺伝子情報を保険サービスに活用する検討に入ったと報じています。

情報管理や、遺伝子に基づいて保険料を普通より高く設定したり、保険加入そのものを断ったりという、情報を材料にした差別の懸念などの倫理的な問題は未解決のままです。事実、遺伝情報や生活習慣が病気などのリスクにどう関わるかの分析を進め、リスクに応じて保険料に差をつけるのが生保業界の描くシナリオとも解説されており、遺伝情報の取り扱いには細心の注意を求めたいものです。

このような懸念から、米国では2008年に「遺伝情報差別禁止法」が制定され、医療保険分野で遺伝情報をもとに加入の可否などを判断することが禁じられており、ドイツなどでも遺伝情報に基づく差別を禁止する法規則を導入しているので、わが国でも早急な法整備が求められると結んでいます。

業界大手のヤフーは264月から、個人の遺伝子情報を解析して生活習慣の改善を助言するサービスを開始しました。スマホなどで計測した日々の情報を組み合わせ、運動量や食生活についてのアドバイスに活用するビジネスというわけです。

生命保険会社の活用法の一部は、同様の手法で病気にかかるリスクを減らし、発症リスクが低減できれば保険料も安くし、同時に保険金の支払いも抑制されるという思惑もあるとされていますが、保険加入の可否に利用されるのだけは禁止すべきでしょう。