有害? 無害? 古くて新しい論争 疑わしきは回避? 

電磁波の人体への影響、WHO 「環境保健新基準」公表



テレビやパソコン、高圧送電線などから出る電磁波は人体に害を及ぼすのかどうか。脳腫瘍や白血病などになる確率が高くなるという報告が見られる一方で、科学的根拠なしとする説も入れ乱れ、何を信じたらいいのでしょうか。

最近は子どもの携帯電話やテレビの使用も増える一方ですから、親としては不安で仕方がありません。

WHO(世界保健機関)は、618日、送電線などから出る電磁波の健康への影響について「新たな環境保健基準」を公表しました。この動きに連動して先月にはわが国でも、経済産業省原子力安全・保安院が、同省総合資源エネルギー調査会に作業部会を設置して検討を始めていました。

 新基準は、平均0.30.4マイクロテスラ(マイクロテスラは磁界の強さの単位) 以上の磁界に日常的にさらされている子どもは、そうでない環境で育つ子どもに比べ、「小児白血病にかかる確率が2倍程度に高まる可能性があり、各国は予防策をとるべきだ」というものです。

WHOの新基準は、電磁波のうち1秒間に50回または60回変動する送電線の電磁波のような「超低周波」を対象にしており、1秒間に8億回変動するような携帯電話から出る電磁波や、20億回以上も変動する電子レンジなどは対象にはなっていないそうです。

論争のそもそものきっかけは、1970年代の米国において、高圧送電線の周辺住民の間では白血病、脳腫瘍などの発生率が高くなるという報告が相次いでなされたことでした。この後の論争に終止符を打つために米議会の要靖を受けた米国立環境衛生研究所(NIEHS)1999年、「送電線から発生する電磁場と周辺住民の発ガンとの因果関係は薄い」とする調査結果を発表する一方、「完全に安全とは言えず、発ガン原因となる可能性は残る」という含みを持たせた見解で、「子どもの白血病の発生率がやや高い」という結果も合わせて報告しています。

さらに1992年、スウェーデンのカロリンスカ研究所が、高圧線から300b以内に住む50万人を対象にした疫学調査で、小児白血病にかかる率が送電線周辺に住む人の場合、送電線のない地域の人の3.8倍も高いことを報告しています。

その後の種々の調査によって、0.4マイクロテスラを超える磁界の中で過ごすことによって、小児白血病の発生率が2倍程度に増える可能性があるとの見通しが、日本を含む各国の疫学調査で明らかにされてきたのです。

日本国立環境研究所も、「因果関係は結論づけられてはいないものの、何の関連もないとは言いきれない」と、なんとなく煮え切りません。全国の電力会社でつくる電力中央研究所は例によって、動物実験の結果を根拠に、影響ありとする意見に科学的根拠はないと主張していますが、「高圧線問題全国ネットワーク」などの市民団体は電力会社の偏った見方に批判的で、わが国の取組みの遅れを指摘してきた経緯があります。

そこで文部科学省は031月、超低周波と健康との関係に関する全国疫学調査(生活環境中電磁界による小児の健康リスクに関する研究)の最終解析結果を公表し、前年夏の中間報告における「小児白血病発生増加率増加」に加えて、「急性リンパ性白血病」が、日常環境の4倍にあたる0.4マイクロテスラ以上の磁界で発症率が2倍以上に増えることを確認したのです。

科学技術庁も036月、1999年から3年間かけて進めた国内初の全国調査の最終報告を文科省のHPで公開し、超低周波電磁波レベルの高い環境(通常の3倍以上にあたる0.3マイクロテスラ以上の部屋で生活)で生活する子どもは、脳腫瘍のリスクが平均で約10倍も上昇するとの結果を報告しています。

ここで容疑は灰色からやや黒ずんだことになりました。

依然あいまいさだけが残るのですが、国際がん研究機関(IARC)01年に、電磁波に「発ガン性の可能性あり」との疑念を示しており、WHO、動物や細胞実験では発ガンが立証できず、電磁波と発ガンに因果関係があるとまでは言えないとの立場を未だ崩してはいません。

携帯電話については、英国では2000年に、使用時にイヤホンを使えば電磁波の脳への影響が強まるのかそれとも弱まるのかという論争を経験。00年8月には、米メリーランド州の一人の神経内科医が自分の脳腫瘍の原因は携帯電話のせいだとして大手携帯電話会社と業界団体を相手取って損害賠償訴訟を起こしたこと等をきっかけに、携帯電話の人体への影響についても騒ぎが拡大。

わが国では、総務省の生体電磁環境研究推進委員会が、「課題学習能力(長期の記憶の保持や獲得)に影響はない」ことから、「携帯電話から出る電磁波が健康に悪影響を及ぼすと言う証拠は認められない」という報告をまとめています。

携帯電話が出す電磁波の人体への影響は明確ではありませんが、米国では頭部への吸収量を体重1`あたり1.6h、欧州の一部の国は2hに規制しており、わが国でも電磁波の発生量を2001年の電波法の規則改正で規制、併せて電磁波の頭部吸収量の測定方法を統一してメーカーへの採用を義務づけました。

最近では、動画の送受信が可能な第3世代(3G)の基地局が増設されるのに伴い、3Gマイクロ波の人体への影響はより強いとして、周辺住民と携帯電話会社の間でトラブルが増加しているとの報道もなされています。

一体、何を信じたらいいのでしょうか。

電気を使うと電場と磁場が発生し、その空間を波となって相互に伝播するのが電磁波と呼ばれるものです。と言うことは、日常生活は、携帯電話をはじめ、パソコン、テレビ、ヘアドライヤー、電磁調理器などから出る電磁波に取り囲まれていることになります。

波が1秒間に振動する回数は周波数と呼ばれており、周波数の高い順に、放射線、紫外線、可視光線、赤外線、マイクロ波、ラジオ周波、超低周波に分けられていますが、いま問題とされているのはマイクロ波以下の物をさしています。家電製品や送電線周辺で問題になる電磁波は5060ヘルツ(ヘルツは周波数の単位)の超低周波、電子レンジなどは高周波のマイクロ波に相当します。

テレビで30a離れて0.20.6マイクロテスラ、ヘアドライヤーは3aで0.2553マイクロテスラ、電気カーペットで3aの距離で1119マイクロテスラの電磁波数値となっていますが、ヘアドライヤーは頭部に近づけて使用されるだけに早く黒白をつけることが望まれます。

電磁波の人体への暴露に対する総務省の防護指針は、

 http://www.tele.soumu.go.jp/j/ele/body/

国際的なガイドラインとしては国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)

 http://wwwsoc.nii.ac.jp/jhps/nonioniz/icnirp.html でごらんください。


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