食の安全と安心

食糧安全保障 --中毒ギョウザ事件から学ぶこと

 中国製毒ギョーザ− (メタミドホス汚染)をきっかけに、冷凍食品の安全性に対する懸念は一気に広がった感があります。事故や過誤ならまだしも、一部には作為、人為的事件や食品テロ説まで飛び交う有様で、一刻も早い解明が待たれるところです。

 今回の事件が教えてくれた教訓は少なくありません。その最たるものはわが国の「食」が抱えている様々な問題が改めて浮き彫りになったことではないでしょうか。

食料自給率39% が示すように、わが国の国民が口にする食品の大半を外国からの輸入に頼っている現状と課題を再認識させられる結果となりました。

 このような状況が続く限り、農産物輸出国が干ばつや天候異変などに見舞われて輸出余力がなくなった場合のきわどさは否定すべくもありません。

従来、「食糧安全保障」とは、主に食糧不足を想定してその重要性が叫ばれてきたのですが、今回の事件が示すように、毒物など「食品テロ」の面からも、輸入食料品の安全性確保を徹底する必要性が強くなったことは否定すべくもありません。

 輸入野菜などは、残留農薬・抗生剤や食品添加物等について厚生労働省の専門機関でチェックを受け、基準を超えたものは回収・廃棄する仕組みが採られています。

しかし検査には限界があり、輸入品の殆どは抜き取り検査のみで、対象は1割程度にとどまるということです。

さらに、今回のギョーザのような加工食品については、残留農薬のチェックすらなされていないというのが現状のようです。

 問題はこのようなチェック体制の甘さだけではなく、外食、デパ地下・駅ナカ(鉄道駅構内)・ホテイチ(ホテル1階の高級惣菜売り場)が花盛りの中食(調理済みの総菜などを購入して自宅で食べること)の増加に象徴されるように、食の外部化・外注化が進み、手の込んだ料理を作る機会が随分と減って、家庭の食卓が様変わりしてしまったことでしょう。日本人の冷凍食品年間消費量は、一人当たり21.1`というから驚きです。

女性の社会進出で、食事の用意をする時間や余裕がなくなっていることも背景にあるのでしょうが、冷凍食品や手軽な加工食品などの氾濫がこのような傾向を後押ししていることも否定できません。

 食品の原産地表示も徐々に進められています。スーパーなどの量販店や、輸入食品への依存度が高いファミリーレストランの一部でも、原産地表示が整備されつつあるようです。

安くて安全、できれば国産品にこだわりたいのはやまやまですが、コストや供給量の関係で国産品に徹することはなかなかむずかしいようです。

食品の生産履歴をたどることができる「トレーサビリティー」も注目されています。「トレース」(足跡の追跡)と「アビリティー」(できること)を組み合わせた用語で、「生産履歴の追跡可能性」と訳されています。

食品の生産から加工、流通・販売までの各段階の履歴がたどれるシステムですが、法律上義務づけられているのはBSE問題をきっかけに03年に制定された「牛肉トレーサビリティー法」だけです。

中国産食品や偽装表示問題から、野菜や肉、加工食品まで品目を広げて生産履歴表示を徹底する店も増えており、生産者、生産地、野菜の栽培法などを携帯電話やパソコンなどを使って簡単に検索できるようにしているスーパーも少なくありません。ただ履歴対象商品は、品質や栽培方法を重視するため、通常商品より1割くらい高くなのが難点のようですが、高くても安心を買うという人が確実に増えているそうです。

 中国産の安全性に疑問符がつくのは今回が初めてではありません。

 02年の2月、民間の「農民運動全国連合会」の調査で中国産冷凍ホウレンソウから殺虫剤のクロルビリホスが基準の9倍も検出され、その後、厚労省が冷凍野菜18品目を生鮮野菜と同じ基準で検査したところ、枝豆やセロリなどからも基準を超える残留農薬が次々と見つかったのです。

 湯通し後に凍らせた冷凍食品は、「食品衛生法」では「加工食品」とされ、生鮮野菜のような残留農薬基準はなく、それまでほとんど検査されたことはなかったのです。

中国からの冷凍ホウレンソウの輸入量は、88年の約600dから01年には約5万dと約83倍に膨れ上がったと当時の新聞は報じています。この事件をきっかけに、スーパーや外食店では中国産の取り扱いを縮小し国産品に切り替えたところが増えた結果、中国産野菜の輸入は一時的にしろ減ったのでした。

 この残留農薬問題を重く見た中国政府は、13億人への食糧確保を最優先する政策から食品の安全性にも目を向けた政策へと転換を図り、本格的な農薬規制に乗り出しました。

それまで使用が全面禁止されていたDDTなど毒性の強い18種類と野菜や果物などへの使用が禁止されている21種類の農薬リストを改めて公表し、農民教育の徹底を図ったのです。しかし人口13億人の国では徹底は難しく、薄めて使うべき農薬をそのまま使ったり、連作障害を防ぐための大量使用、分解されにくいDDTなどが土壌に残留、さらには農薬の使用時期を誤って収穫直前にも散布するなど、規制強化の徹底がむずかしい状況を当時のニュースは伝えています。

 わが国では、農産物などの残留農薬に対する規制は、06年5月に強化されました。

野菜など食品の安全管理を徹底し農薬の残留成分が一定以上含まれる食品(農産物から加工食品まですべての食品が対象)の流通を原則禁止する「ポジティブリスト制度」が立ちあげられました。

これを受けて、許容される残留基準値が示された799品目以外の農薬を契約農家との取り決めで使わないようにしたスーパーが増えるなど、「食の安全と安心」は徐々にではありますが整備されては来たのですが・・・。


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