新型インフルエンザ対策は万全でしょうか?


今季のインフルエンザは、例年より1ヵ月も早く流行が始まり、猛威が予想された割には尻すぼみとなって、大きな流行にもならずシーズンを終えることが出来ました。

患者さんの9割以上はAソ連型で、昨年のようにB型の流行を4月まで引きずることもありませんでした。

インフルエンザは終息段階に入りましたが、最近、「新型インフルエンザ」に関する報道を目にする機会が増えたように思われます。新型インフルエンザ対策の大筋がほぼ決まり、その内容がしばしば記事にされるからでしょう。

いつ大流行が始まっても不思議ではないとされながら、幸いにしてヒト−ヒト感染が拡大する様子もありません。来るぞ来るぞと言われつつも幸いにして登場しない新型インフルエンザは、まるで狼少年のようです。勿論来ないにこしたことはないのですが、大震災と同じで、やがてやってくる可能性は少なくなく、諸外国に比べてわが国の対策の甘さと遅れが指摘されてきました。

4月20日の日経新聞は、新型インフルエンザ対策を盛り込んだ感染症予防法と検疫法の改正案の成立に向けて、自民、民主両党が大筋合意したと報じています。患者の隔離や入院措置などの対策を素早く実施できる態勢を整えるための法的根拠を与えるものであると説明されています。ガソリン税の暫定税率復活を巡る攻防ではしのぎを削る両党が合意に達したという事実は、新型インフルエンザへの危機感がそれだけ強いことを物語っています。

病院にとどめる対象に発症前の感染者を含めることなど、法案を修正する方向で調整を図っているとのことですが、日本に新型インフルエンザが持ち込まれるような事態になれば、世界同時多発的にパンデミック状態になることが予想され、対策は人権の制限に踏み込んだ厳しいものにならざるを得ないものと予想されていました。

1999年に制定された「感染症新法」 (感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)では、@制定の趣旨、A法律の要点の(1)基本理念、(2)国及び地方公共団体の責務にも、「人権」に配慮した健康診断や就業制限・入院、感染症の患者の人権保護への留意などが繰り返し謳われ、「防疫と人権の調整」が大きな課題として残されていたのです。

しかし病原体の海外からの侵入・拡大の防止と、国民の健康を保持することが検疫の目的として「水際での感染症対策の強化」が強調されたことから、就業・集会の制限や強制入院など、ある程度人権を犠牲にした措置の必要性は想定されていなかったわけではありません。

今回、政府は海外で新型インフルエンザが発生した場合、発生国からの航空機や船便の到着を国内の7空港・港に限定し、感染の可能性がある人をホテルなどに10日程度停留させる水際対策を採ることを4月9日に発表しています。

現在の改正案では、「発症していなくても感染している人(無症状病原体保有者)移動制限」を明記する方向での調整が進められており、08年6月で失効するH5N1型鳥インフルエンザの二類感染症指定の延長や、ワクチンなどの研究開発促進、早期の製造・販売、タミフルなどの抗インフルエンザ薬の備蓄、隔離先の医療機関以外の施設への拡大なども盛り込まれる予定となっているようです。

タミフルが新型インフルエンザにも有効かどうかは未知数ですが、今シーズンのインフルエンザでタミフルが効かない耐性ウイルスが欧州で急増していることが確認されており、タミフルによる異常行動問題とともに更なる解析が待たれるところでしょう。

新型インフルエンザ対策として現在、国と都道府県が約544億円を投じて2,400万人分のタミフルの備蓄を進めていますが、早いものは2年後に使用期限が迫っており、期限オーバーのものは当然廃棄されることになります。幸にして新型インフルエンザの流行が数年以上も起こらない場合は全て期限切れとなって、それこそ宝の持ち腐れになりかねません。そこでタミフル輸入販売元の中外製薬では、薬事法に基づき、使用期限を現行の5年間から7年間に延長するよう求める申請を提出し、この難題を一時的にしろ解決する方針ということです。

さらに厚生労働省の専門家会議は16日、国が備蓄している「プレパンデミックワクチン」(約2,000万人分)の一部を、今年度中に検疫所職員や医療従事者ら6,400人に事前接種することに決めたということです。

このプレパンデミックワクチンは、インドネシアなどで発生しているH5N1鳥インフルエンザのウイルスをベースに開発されたもので、事前接種は世界で初めてということになります。

このワクチンが新型インフルエンザにも有効という保証はどこにもないのですが、有効性や安全性、免疫持続性(どのくらいの期間効き目が続くのか)等の検証からワクチンの備蓄方針、効率的な利用方法を導き出すデータを収集するための方策と考えられています。

安全性に問題がなければ、来年度以降、感染症指定医療機関以外の医療従事者や国会議員、警察官など「社会機能の維持に不可欠」とされる人1千万人にも広げる予定とされています。さらに16日には、舛添厚労相が「一般国民のなかで希望する人がいたら事前接種の対象と考える」検討に入る旨の談話を公表しています。

効くかどうか分からないプレパンデミックワクチンに頼るよりも、新型インフルエンザが発生してから製造するパンデミックワクチンの方に高い効果が期待できるのは当然のことですが、実用的なワクチンの製造には1年半くらいの時間がかかるものと予想されるところから、細胞培養ワクチンの開発で製造期間を約1/3程度に短縮する研究や、生後6ヵ月以上の子どもを対象にワクチンの安全性を調べる臨床試験に臨むとも述べられています。