赤ちゃんがいるのに 裁判員 ?

 市民が刑事裁判の審理に参加する「裁判員裁判」来年5月21日から施行されることが決まってから、裁判員制度に関する報道が目立つようになりました。特に1128日、09年の裁判員候補者になった全国295027人に最高裁判所が一斉に通知を出した日からは、連日テレビや新聞に関連情報が氾濫しています。わが国の刑事裁判を根底から変える大改革なのですから関心が高まるのも当然のことでしょう。

通知を受け取った候補者からの問い合わせで最も多いものは、「どんな場合に辞退できるのか」 というものだそうです。

では、子育て真っ最中のお母さんはどうなるのでしょう?

代わって面倒を見てくれる人がいるとか、臨時の保育所が整備されるならともかく、まさかわが子を背たらって法廷入りするわけにもいかず、選ばれたらどうしようという思いは無言のプレッシャーとなって出産・育児にブレーキをかけることにもなりかねません。

 最高裁は乳幼児のいる裁判員候補者の辞退を認める方針とされています。各地裁は本人が希望した場合に備え、近くの保育園で一時保育サービスを利用できるよう地元自治体と協議し、全国60地裁・支部の9割近い52カ所で保育所を利用できる見通しになったことが毎日新聞のアンケートで判明したということです(1125日、毎日新聞)。

 裁判員候補者に選ばれたら、基本的には一部の例外を除き辞退することは認められないようです。

候補者に選ばれた人には、今回のように最高裁から調査票や質問表が送られますが、70歳以上とか、学生、重い病気やケガなどは辞退理由に挙げられています。

また自分がいなければ仕事にならない立場にある人なども辞退が認められることがあるようですが、思想・信条による事態の扱いは微妙な部分となります。

ただ通知が届いたからといって直ちに正式な裁判員となるわけでもなく、裁判所から呼び出しを受けた後、最終的に選ばれた一事件あたり6人が裁判官3人とともに審理を担当し、被告の有罪・無罪および量刑を決めることになるのだそうです。

裁判官の常識や市民感情などに関する国民側の疑念を修正し、市民の目線で審理にかかわるというのが本制度の趣旨とされています。

これまで裁判などには全く無縁であった人が指名されるわけですから、と惑うなと言うほうが無理というもので、守秘義務にしばられることや、被告の逆恨みを懸念する思い、面倒なことにはかかわりたくないといった素朴な感情などからついつい尻込みしたくなって当然ではないでしょうか。

しかし、裁判員を務めることは国民としての権利であり義務でもあり、納税、教育、勤労と並んで、司法への参加が国民の4大義務の一つとの考えから、立法や行政と同じように市民参加の権利は保証されて当然という考えが背景にあることも承知しておかなくてはならないという意見も見られます。

ただ陪審員制度や参審制は必ずしも先進的でも合理的なものでもなく、その発祥をみても欧米諸国の単なる伝統の一つにすぎず、「人を裁く」という難事業に不可欠な訓練を全く経験しておらずそのための心構えや覚悟も持たない一般人を参加させることには大きな無理があるという論調もみられます。(平成15年5月29日、産経「正論」)

裁判員制度は、政府の司法制度改革審議会が平成13年に導入を打ち出し、平成16年の参院本会議で賛成多数で可決、成立、5年の周知期間を経て来年から施行予定となったものですが、国民に制度の内容を理解してもらう努力が十分であったかどうかについては大きな疑問符が残るところでしょう。

やや感情的で先入観に支配されがちな報道の顛末が予測と違った結果に終わったとしても、謝罪や弁明を怠りがちなわが国のマスメディアをみる時、事件の報道に裁判員の思考過程が左右されてしまう危険性がないとも言えません。

さらに「守秘義務」違反があった場合には、懲役刑を科すなどの罰則規定も盛り込まれています。また、裁判員を辞退できる理由の基準も不明確な点が多々あり、再修正の余地があったにもかかわらず、不十分なまま成立に至ったいきさつがあり、円滑な運営が軌道に乗るまでには紆余曲折が予想されます。

「社員が裁判員に選出された場合、業務に支障が出る」と答えた企業が51%に上ることが2年前の日経新聞の調査で分かっており、産経新聞が近畿2府4県の救命救急センターに対して行ったアンケートでも、「医師が裁判員に選ばれれば救命救急に大きな影響が生じる」ことが判明しています(1021日、産経)。