最悪のシナリオ ? (6)

 

(12) 新型インフルエンザをめぐる混乱

 

 新型インフルエンザの最有力候補はH5N1型ですが、その通りになるかどうかについては意見が分かれています。ウイルスの型に関してだけではなく、プレパンデミックワクチンの評価、大流行時の感染者や死亡者数の予測値など、新型インフルエンザ像は専門家の間でもまちまちで一つではありません。

遺伝子変異の程度などによって左右されるウイルスの強さは、新型が発生して人から人に感染する状態(phase4)にならないと分からないというのが大きな理由ですが、新型インフルエンザについては大きな誤解があるという意見も見られます。

ただ多くの専門家の間で共通する意見としては、新型インフルエンザは近い将来に必ずやって来るだろうということと、わが国の新型インフルエンザ対策には総合的戦略、特に医療面でのバックアップ態勢が欠如しており、早急な手直しが望まれるということでしょう。

 

今季に流行しているインフルエンザの話題として、流行株の6割を占めるAソ連型の「タミフル耐性ウイルス」の出現が挙げられますが、この点については以前にも紹介しました。

Aソ連型(H1N1型)で、タミフルが効きにくい耐性ウイルスが世界中で広まっており、WHOの発表では当初の14%から、0810月には39%に増加しているということです。

わが国で昨冬は2.6%の耐性率であったものが、今季は1月中旬には98を占めているという驚くべき事実も報告されています。薬剤耐性は、抗生物質でもみられるようにその薬剤の使いすぎから発生するケースが多いようですが、今回はタミフル使用量の少ない欧州(ノルウェーなど)から始まったという点からみて、「突然変異」で生まれた感染性の強いウイルスが、偶然にタミフル耐性を持っていたのではないかと推論されています。

抗インフルエンザ薬のうち古くから使用されてきたアマンタジンでも、耐性ウイルスの存在が知られており、この薬を予防的に使用した場合のほうが耐性株は生まれやすいと考えられてきました。

幸いなことに耐性株の増殖力は総じて弱く、耐性株が大流行を起こすことはないと考えられてきましたが、今季の耐性Aソ連株は増殖力も感染力も強く、これが流行につながった要因ではないかと考えられており、従来の考え方を修正する必要がありそうです。

H5N1型トリインフルエンザウイルスでも、Aソ連型ウイルスに見られる遺伝子変異と同様のメカニズムによる変異ウイルスの出現が確認されています。

また、新型に生まれ変わる可能性の高いH5N1型と、タミフル耐性を有するAソ連型の間で遺伝子の交雑(お互いのウイルスが一つの細胞に感染し遺伝子の再集合の結果「ハイブリッドウイルス」が現れる現象)が起こってタミフル耐性の新たなH5N1型が出現する可能性もなくはなく、抗インフルエンザ薬の備蓄に新たな問題を投げかけることになりはしないかと懸念されています。

 

これらタミフル耐性ウイルスの流行を反映して、もう一つのインフルエンザ治療薬である「リレンザ」が処方量の増加から品薄状態となったため、リレンザを販売している英製薬大手のグラクソ・スミスクライン(GSK)日本法人は、リレンザ200万人分を4月までに緊急輸入することを決定(2月40万人分、3月60万人分、4月100万人分)(2月11日発表)。GSKはシーズン前に今季用として300万人分を準備していたが、今回の措置で今シーズンの治療薬は十分に確保できる見通しというのが厚生労働省の見解です。

 

新型インフルエンザに対応するため、政府は2,800万人分のタミフルと135万人分のりレンザを備蓄していますが、副作用の懸念がもたれているのはタミフルだけではなく、リレンザでも同様の異常行動の副作用?)の報告があり、1月27日、リレンザの処方を受けた長野県の17歳男子高校生の自宅5階ベランダからの転落死例について、厚労省は注意喚起の通知を出しています(1月30日、毎日新聞)