最悪のシナリオ ? (8)

 

(14) 新型インフルエンザ対策のむずかしさ

 パンデミック状態になった時にわが国の経済がこうむる損失額は20兆円、GDP4%減に達するものと第一生命研究所は試算しています。

厚生労働省は昨年7月、大流行時には従業員の4割が欠勤するだろうという予測を発表し、最低限の事業を継続するための「行動計画」を作成するよう、企業や自治体に求めました。

厚労省がこのような方針を打ち出す以前から、問題意識と危機管理がしっかりした企業は大流行時の対策を立てており、BCPBusiness continuing plan)の方策や、抗インフルエンザ薬の備蓄などに腐心しています。

 

3月2日の朝日新聞は、「新型インフル 悩む鉄道」という見出しで、「乗車制限なら混乱」、「運転士確保も難題」として、大流行対策の難しさを紹介しています。

この記事は、鉄道各社が新型インフルエンザへの対応に苦慮し、行動計画の策定も他種企業に比べて遅れている現状について報告したものです。

 満員の通勤電車は主な感染経路になる可能性があるものの、安易な乗車・運行制限も混乱を招く恐れがあり、流行時に出勤できる乗務員数や旅客需要の見きわめも難しく、行動計画づくりが進んでいない事情が紹介されています。

 

 記事では、流行時に満員電車を走らせるわけにもいかず、行動計画の基本は乗客数を減らすことになるが、それには在宅勤務や時差出勤、休校といった企業や学校の協力が必要。鉄道会社 だけで対応できる範囲を超えていると結論づけています。

 また流行時には、社会基盤を維持する目的で、医療関係者や電気、ガス事業者らを優先的に乗車させる必要性が指摘されていることにも触れています。

しかしわが国の国民性からいって、十分な議論もなしにそのような方針を選ぶことに国民全体の理解が得られるとは考えられず、たとえそのような方策を採るにしても混乱と不満が増幅されるだけではないかと私は思います。

 

 07年1月に厚労省の専門家会議が提示した新型インフルエンザ対策のガイドライン原案では、ワクチンの優先順位の対象として、医療従事者のほか、「電気、ガス、水道、食糧供給、通信、交通、警察」など、社会生活に最低限必要な「社会機能維持者」7職種を初めて提示、その後は具体的な対象範囲の策定を進めてきました。政府の関係省庁対策会議からも、3群に分けた先行接種の対象者と順位の具体案が示され、パブリックコメントを募集する作業も進められてきました。十分な議論を尽くしコンセンサスが得られるような手順を踏んだ上で、最終案の取りまとめを急ぐ必要がありそうです。

 優先順位の発想は、米国などでは1990年代に認証され公表されていましたが、わが国では04年に厚労省が初めて策定したものの、「優先順位を公表すると、不公平感が残るため、発表するタイミングが難しい」として余りオープンにはされて来なかったのが現状です。

 

従業員の半数近くが欠勤状態に追い込まれるのは鉄道会社とて例外ではなく、不特定多数の人に接触する機会の多い駅員や出札係などは一般の人よりも一早く感染してしまう可能性もあって、ダイヤ通りの運行は期待できず、間引き運転で来る電車くる電車が満員、感染拡大の温床になることだけは避けられそうもありません。

 ガイドラインでは、感染拡大の防止には国民の行動に制限を加えて人同士の接触機会をできるだけ少なくする「social distancing (社会的距離の拡大)」の精神が柱になっているようで、鉄道の乗客も人と人との距離を1b以上空けて乗るという理想が挙げられてはいますが、しょせん夢物語になりそうです。