謎の多い「新型インフルエンザ」 A

ついに第3段階 「感染拡大期〜蔓延期」 に

                                         

5月16日、ついに国内初の新型インフルエンザ感染が神戸市で確認され、その後数日で報告数は増加の一途です。

「地域社会レベルの感染拡大」が認定されれば(米州はすでに+)警戒水準「フェーズ6」への引き上げは時間の問題という状況になりつつあるようです。

CDCの見解によると、米国では既に10万人以上の感染者推計さえ明らかにされています。

 19日現在の患者報告数は178人となっていますが、これはウイルスの遺伝子検査で確定されたものだけですので、実数はこの数十倍に及ぶのではないかと推定されます。感染力が強いだけに、この1〜2週間のうちに爆発的に増えてアウトブレイクを起こすものと思われますが、日本における急激な増加はその実態もさることながら、わが国の診断レベルの高さの証明とも言われています。   

 大阪府の新型インフルエンザ対策委員会は、「流行警戒宣言」を発令、府内の発生状況から「まん延期」に入ったとの認識を示し、今後は感染症指定医療機関のみならず、全医療機関でも対応する段階に入りつつある状況となっています。

 

今回のH1N1型は幸いにして「弱毒型」ということで致死率も高くないようですが、患者1人当たり2.23.1人に感染するほどの感染力の強さ(スペイン風邪並み:仏研究チーム)があるともされ、糖尿病や腎臓病などの基礎疾患をもっている人、妊婦の感染では重症化する例も少なくないようです。

過剰とも言える行動計画や対策が進められて市民生活に深刻な影響が出ていますが、感染がどのように広がるかが不明な現段階では、感染力や致死率を含めて高リスクの人がいかなる経過を取るかが判明するまでは、早すぎる休校や保育所閉所などもある程度は仕方がないのかもしれません。

新型インフルエンザに対する行動計画は、もともと強毒型のH5N1を視野に策定されたものだけに、今回のような季節性インフルエンザと余り変わらないH1N1型に対してはやや重きに過ぎる傾向があり、政府は近々に見直しに着手し、現実に即応した行動計画の弾力的な運用に修正するものと思われます。

パンデミック対策は感染拡大と死者の抑制が最大の課題とはいえ、経済や企業活動、社会生活、教育などとの折り合いをつけることがいかに難しいかを思い知らされる結果となりました。

 流行が拡大する過程で、新たな疑問や課題が浮き彫りになってきたのもまた事実なので、ここに整理しておきたいと思います。

 

Q. 諸外国では見られぬくらいの厳しい「水際対策」をすり抜け、海外渡航者との接点のない高校生に国内初の患者が出たのはどうしてでしょう?

 

 A. 水際対策に一定の効果があったことは事実であり、流行の拡大を先送りして対策を検討する時間稼ぎが出来た点は評価していいでしょう。

 海外で新型インフルエンザが発生した場合、発生国からの航空機や船便の到着を国内7空港・港に限定し、感染の可能性のある人を10日間程度ホテルなどに停留させる「水際対策」は昨年4月に発表されました。新型インフルエンザ対策を盛り込んだ「感染症予防法と検疫法の改正案」も、5月に成立。

今回の成田での措置はこの法律に則ったものですが、隔離など部分的にも人権を制限する内容も含まれているだけに、実施に向けての法的な整備が必要という認識に基づいて合意されたもので、 「移動制限」の対象範囲を拡げ、ウイルスに感染しながら発症していない「無症状病原体保有者 carrierも明記されています。

 

 感染しても発病していない「不顕性感染者」がどのくらいいるのかは、専門家の間でも意見の分かれる点です。およそ3割、あるいは今回のような弱毒型では発熱さえ目立たない軽症者はさらに多いという見方もあり、自分がインフルエンザとの認識がないままにウイルスを拡散している人が多いことも疑われています。

今回のすり抜け事例は、カナダからの航空便にこのような不顕性感染者か、潜伏期間中の感染者が含まれていたものか、あるいはメキシコやカナダ、米国以外の発生地からの渡航者の紛れこみによるものかとも思われますが、感染経路をはじめ真の原因は不明のようです。

 いずれにしても、「水際」での防衛に限界があることは、以前から予想されていたことです。

 政府は昨年11月、新型インフルエンザ対策の基本となる「行動計画」を前面改定し、「ウイルスの国内侵入を防ぐのはほぼ不可能」との認識を示していました。

 この前提に立って、@感染拡大を抑制して健康被害を最小限に留める、A社会・経済を破綻に至らせない、という目的を従来よりも明確化し、発生段階を@未発生期、A海外発生期、B国内発生早期、C感染拡大期・蔓延期・回復期、D小康期に分けた行動計画に沿った対策、指針が明確化されました。

 

Q. 60歳以上の患者が殆どいないそうですが?

 A. 通常の季節型インフルエンザでは、60歳以上の高齢者の重症化が問題になりますが、今回のH1N1型に関しては若い世代に目立つようで、米CDCの報告でも、51歳以上はわずか5%で、60%が18歳以下です。理由は不明ながら、4050年前に類似のH1N1型の流行の際に感染を受けて免疫ができていた可能性が残されているのかもしれません。 

 

Q. 2メートル・ルールというのがあるそうですが・・・

 インフルエンザウイルスは、基本的にせきやくしゃみで飛散する鼻汁や痰などしぶきに含まれるウイルスそのものか、飛沫が空気中に浮遊しているうちに呼吸器に吸い込まれて起こる「飛沫感染」によって広がります。

直接でなくても、ウイルスが付着したドアノブや電車のつり革に触れ、その手で自分の顔や鼻などに触れることによっても感染する可能性があります。

せきで飛ぶしぶきの範囲はせいぜい1〜2bくらいなので、人と人の間隔を2b離すことが感染防止に役立つとされています。これが2bルールです。

また、ウイルスを含有する飛沫粒子が直径20nm以下になると、飛沫の中の水分が次第に蒸発乾燥し、飛沫核となって空中に長時間浮遊する結果、人の呼吸器に吸い込まれて起こる「飛沫核感染」(空気感染)という感染様式もあります。インフルエンザウイルスの場合は「飛沫感染」が主で、SARSサーズも含め、空気感染が起こっているエビデンスはないものの可能性は否定できないとされています。

 

Q. 来シーズンのインフルエンザワクチンはどうなるのでしょう

  ワクチン製造には孵化鶏卵という特殊な鶏卵を必要とし、来期のワクチン製造予定量に応じて契約農家に発注する仕組みになっています。来期のワクチンを「新型インフルエンザ」に偏って作ることは、通常の季節性インフルエンザワクチン量に影響することになり、両者のバランスに配慮が求められるところです。

  5月12日、舛添要一厚労相は「季節性インフルエンザも軽視できない。新型ウイルスの特性と感染拡大の範囲を見極め、6月初めをめどに季節性のワクチンとの製造割合を決めたい」と言明。

 政府の行動計画によると、海外で新型インフルエンザが発生した段階でワクチンの生産を開始し、もし季節性インフルエンザワクチンの生産時期と重なる場合は、季節性インフルエンザワクチンの製造を中止してでも新型ワクチンに切り替えるとなっています。

ただこの案は、強毒のH5N1を念頭に作成されたもので、今回の弱毒型H1N1の病原性のレベルに対応したものではないだけに、両者の製造割合をどう調整するかは、今後の感染拡大と強毒化の度合いを見極めての難しい判断が求められことになります。 政府の計画では、米国から5月下旬にも到着予定のワクチン製造用ウイルス株をもとに、6月初めにも製造開始に踏み切る予定だそうで、新型単独ワクチンか、季節性ワクチンに新型株を混合したワクチンにするかを早急に決める必要に迫られています。

いずれにしても、WHOの判断待ちというところですが、WHOが明確な指針を出しかねている点に混迷の原因があり、不満を訴える声が少なくないようです。