せつかくの研究成果が !!

バイオテロの悪夢

                                                   2012.3.6

強毒性のインフルエンザウイルス「H5N1」が、人間のような哺乳類同士でも感染しやすくなる仕組みに関する研究の公表をめぐって、大論争が起きています。

 治療薬やワクチンの開発など新型インフルエンザ対策に不可欠とする科学者側と、テロ悪用を懸念する米政府の主張が折り合わないのです。

 事の起こりは、東京大学医科学研究所の河岡義裕教授らの研究グループが「インフルエンザウイルスの遺伝子の立体構造」を解明したことに端を発しています。

今回の研究で、これまで不明だったウイルス増殖時に自身の遺伝子(リボヌクレオ蛋白質複合体)をウイルス粒子内に取り込む過程のメカニズムが明らかにされたことによって、自らの遺伝子を子孫に受け継ぐ仕組みの解明や、新型ウイルスの発生機序解明への道筋かつくのではないかと期待されているのです。

論争は、この最新の研究成果が公表されると、テロリストがウイルスを生物兵器に転用し「生物テロ」に悪用する危険性があるのではないかという米政府の懸念から持ち上がったものです。

関連論文は2種、一つは上述の河岡教授のもの、もう一つはオランダの研究所のフーシェ教授が執筆したもので、変異させたH5N1型トリインフルエンザウイルスが哺乳類同士でも感染しやすくなる仕組みを動物実験により解明したとするものです。

昨年11月、このオランダの研究者が変異ウイルスの作成に成功したとの発表を受け、米政府の科学諮問委員会は12月に、発表前の論文の一部削除を主張。米政府の意向に対して科学者は「米政府は過剰反応」と反発し、完全な形での公表はパンデミック対策上不可欠と主張したうえ、問題提起のため1月下旬から60日間は自主的に研究を停止。

このような両者の反目を受けて中立のWHO16日から緊急会議を開催し、討議の結論として17日には「全文を公表すべき」との勧告をまとめて閉幕。WHOは数ヶ月以内の専門家会議の開催と、安全管理の国際基準の策定方針を示すと共に、研究所に出入りする人の大幅な制限や盗難対策、施設の厳重な密閉を提案しています。

米政府がこれほど神経質になるのも、2001年の9.11の同時多発テロ、10月からの炭疽菌ばらまき事件と続く「新しい戦争(ブッシュ大統領)」のトラウマが強いことにほかならないからでしょう。

炭疽菌に関しては、当初 テロと無関係とされていたにもかかわらず、被害が広がるにつれ、郵送された炭疽菌の純度や精製技術の高さから、犯人は高度の技術を持った「テロリストの仕業」と断定。炭疽菌の肺感染による死亡者の全国拡大と、見えぬ脅威により米国社会は混乱の極みに達するという苦い経験と不安を持っているからなのです。