ワクチンをめぐるジレンマ

日本脳炎/ポリオ ワクチン接種後の死亡例 その後

                                                 2012.11.6

 1018日の各紙夕刊は、1017日の夕方に岐阜県美濃市の小児科医院で日本脳炎の予防接種を受けた10歳男子が、接種約5分後に意識不明、心肺停止の状態に陥り、約2時間後に搬送先の病院で死亡が確認されたという事例を伝えています。この男児は、本来なら3、4歳で計3回受けるべき第1期の接種をしておらず、今回が始めての日本脳炎の接種であったということです。

第一報では、「死因は急性アレルギー反応であるアナフィラキシーショック」ではないかという専門家の意見が紹介されていますが、その後の検証では、患児が内服していた複数の向精神薬の相互作用や注射に対する過度の恐怖や痛みがショックの原因になったのではないかという推論もあるようです。

 

 この事例より前の7月には、日本脳炎ワクチンの接種を受けた基礎疾患を有する9才未満の小児が、接種翌日からのカゼ症状に引き続き、翌々日に発熱して接種1週間後に「急性脳症」がもとで死亡したという事例も確認されています。

 事態を重く見た厚労省は30日の閣議後に三井厚労相が会見し、死亡・重篤事例の副反応報告があった場合はメーカーに情報を提供し、迅速に調査した上、同検討会で評価する仕組みについて発表、製造メーカーに対しても調査への協力を要請しました。

 

 この死亡2症例を受けて、厚生科学審議会予防接種部会1031日に日本脳炎に関する小委員会を開催し、ワクチンの安全性についての協議を行った上、2例ともワクチンそのものと死亡との関連は薄く、「ワクチンの品質に問題がある可能性は低く」、「現時点で接種中止の必要はない」と結論付けて、接種そのものにはゴーサインを出したのです。

 

 現在使用されている乾燥細胞培養ワクチンはそれほど歴史のあるものではなく、2005年に日脳ワクチン接種後にADEM(急性散在性脳脊髄炎)を発症した従来のマウス脳細胞由来のワクチンを改良して新規に導入されたワクチンです。この副反応事例がもとで2005年5月に積極的勧奨が差し控えられ、新ワクチンの開発を機に10年度から接種勧奨が再開された経緯があります。

本年9月末までに年間約500万回、延べ1445万回接種に対して、今回のような死亡例はないものの、アナフィラキシーショックや意識喪失例、顔面蒼白と血圧低下、発熱、けいれん、嘔吐など副作用と疑われるケースが104も報告されており、数人に後遺症が残ったことが厚労省への報告で判明しています。

また11例のADEM131万回の接種に1例の割合)が報告されていますが、死亡と接種の因果関係が明確ではない今回の2死亡例についても、「引き続き調査、検討が必要」との認識で一致している模様です。部会では、「出来る限り早く情報を収集して、因果関係の調査を行う必要」があり、「副反応報告制度を見直す必要」「どの程度の頻度で副反応が報告されたら接種を中止すべきか」一定の基準を定めるべきだという提言がなされています。

 

一方「不活化ポリオワクチン」でも、9月1日に一回目の接種を受けた12ヶ月未満の女児が、同月19日に嘔吐などの症状をきたして救急搬送され、翌20日に死亡。接種から18日も経過した事例であるということもあって「臨床経過や検査所見から死亡との因果関係はない」というのが検討会での一致した見解のようです。

従来の生ポリオワクチンに代わってこの9月から新規に導入された不活化ワクチンは、9月の約100万回の推定接種回数に対して、メーカーから報告された副反応例は2例であったとのことで、因果関係はともかくとして、死亡例は10月の本例が初発例となっています。

 

実際に接種を進める診療現場としては、副反応例の詳細な情報が得られないこと、さらに「どのような場合や経過なら、接種と副反応の因果関係がある」と言えるのか、また、接種から何日以内の発症なら因果関係の疑いが強くなるのか、具体的な基準が示されないまま接種肯定という点になんとなく割り切れない思いが残るというのが率直な感想です。