あら何ともなきやきのふは過ぎてふくと汁

毒キノコにもご注意を!

                                                                                  2013.10.25

  さしもの猛暑も鳴りを潜め朝夕はめっきり涼しくなって、秋の訪れが身にしみて感じられる候となってきました。

いよいよフグ(河豚)が恋しくなる季節がやってきましたが、標題に挙げた「あら何ともなきやきのふは過ぎてふくと汁」は 松尾芭蕉のフグを題材にした有名な句です。

与謝蕪村も「ふく汁の我活キている寝覚哉」という名句をものにしていますが、フグには毒があるが故に余計に惹かれるというフグ好きもおられるようで、魅力的なものに毒が多いのは何も魚だけとは限らないようです。

毎年この季節になると「毒キノコにご用心」という記事がきまって登場することになります。フグ毒、貝ドクをはじめ毒キノコなどは、しばしば「食中毒」の原因となって人の命を脅かします。

山野に分け入ってキノコや山菜採りに、春はハルで潮干狩りに出かけて貝拾いに熱中するのは、江戸時代から連綿と続いたわが国の食文化の粋ともいえましょう。しかし、これらは時として毒をもって叛かないとも限らず、食べたいけれども命は惜ししというのがフグの場合と共通する悩ましい本音ではないでしょうか。

今から10年ほど前、「フグ特区構想」なるものが持ち上がり、禁断の「フグ肝を復活させる」というフグ肝解禁案が出されたのですが、「食品安全委員会かび毒・自然毒等専門調査会」なる国の組織はこの構想に否定的な立場を貫いたのでした。

フグの毒は、海底の細菌で作られる猛毒のテトロドトキシン(青酸カリの約千倍の毒性をもつ) なるもので、これを体内に持つヒトデや貝、プランクトンなどをエサにしたフグの体内で蓄積されるという「食物連鎖仮説」が禁断の論拠となっています。従って、養殖場の周囲を囲い、毒を有する生物が入らない環境で育てたフグの肝には毒はない筈というのが減毒論者の言い分なのですが、環境を遮断しても、食物連鎖以外の要因もフグ毒産生に絡んでいるのではないかとする調査会の意見に押し切られて、この無毒化の試みは頓挫したままになっているのです。

フグの話は兎も角として、本題のキノコの噺に戻りますが、毒キノコによる「食中毒」は、20022012年に計628件も報告されているそうで、患者1968人中9人が命を落としており、それも10月に集中しているのだそうです(1020日、毎日新聞)。

問題は食用キノコと良く似ていて区別のつかない「毒キノコ」も少なくないことで、食中毒の報告が多い「ツキヨタケ」はシイタケやヒラタケと似ていて見分けがつきにくいのだとか。このツキヨタケ、クサウラベニタケ、カキシメジの3種類でキノコ中毒症例の約7割を占めるのだそうです。

要するに食用キノコと毒キノコを間違えて食中毒になる人が殆どで、「地味な色なら食用、派手な色は毒キノコ」とか、「縦に裂けるものは食べられる」、「ナスと一緒に煮れば毒が消える」などは全て迷信!「確実に食用だと判断できない場合は、決して採取してはいけない」を守り、キノコ採りのベテランに同行してもらうとか、事前の下調べが大切であることが強調されています(同)。

「虫が食ったキノコは安全」とする説もあるそうですがこれとて根拠はなく、2004年には、東北や北陸地方で食用として親しまれてきた「スギヒラタケ」を食べて「急性脳症」を来たした患者が大量発生し、20人近くが死亡したというから、キノコを食べるということは何が起こるかわからないと考えておいたほうが無難なようです。

キノコを食べて中毒症状が現れた場合、それが6時間以内ならば水やぬるま湯を飲ませた後、のどに指を入れて吐かせたり、毒成分を吸着させる木炭が活性炭の粉末を一緒に飲ませて吐かせるのが効果的であると紹介されています(2008.10.28 日経夕刊)