放射性物質をめぐる攻防

福島における鼻血騒動

2014.8.19

 台風11号に追い打ちをかけるような豪雨に見舞われたせいで、各地に被害が広がっています。

天候異変は地球温暖化のせいだと言われてもピンときませんが、東京電力福島第1原発事故が起こるまで、原発は地球温暖化対策の柱とされていたのです。

 原発の是非を巡っての論争は議論百出、早々には結論が出そうにもありません。

4月に発行された某漫画誌の連載「美味しんぼ」の一場面に、福島では「鼻血を出す人が増えた」というくだりがあり、原発事故による健康影響ではないかとして物議を呼んだのでした。

単なる風評被害と言い切ってしまえば話は早いのですが、この騒動の背景には、国や県が「健康への影響」をはじめとする情報を正しく伝えてこなかった構図が存在しています。

福島県は、国連科学委員会の報告書などに基づいて「原発事故で放出された放射性物質による健康被害が確認された例はない」との態度をとっています。

8月17日の各紙に「放射線についての正しい知識を」と題する政府広報、復興庁などの全面記事が載せられています。

この中で東京大学医学部の中川恵一放射線科准教授は、上咽頭がんの放射線治療における7万ミリシーベルト近くの被ばくでも鼻血が出るという経験は30年間皆無であるとして、「鼻血が出る」ということに疑問を呈しています。

さらに氏は「10ミリシーベルト以下では、大きな被ばく集団でさえ、がん罹患率の増加は見られない」というICRP(国際放射線防護委員会)の考えをもとに、原発事故後4か月間の外部被ばく量は99.97%の人が10ミリシーベルト以下であったから、福島では被ばくによるがんは増えないとの見解を示しています。

国際的にも、100ミリシーベルト以下の被ばく量では、がんの増加は確認されていないことから、最大でも約35ミリシーベルト未満の福島では甲状腺がんの増加はあるまいとの見方も示しています。

同紙の中で、IAEA(国際原子力機関)保健部長のレティ・キース・チェム氏は放射線の放出は地球の営みの一部であって、地殻にも存在するし宇宙線としても飛来、体の組織にすら天然由来の放射性物質が含まれており、放射線の量を人体への影響の大きさで表した単位がシーベルトであり、世界平均で年間およそ24シーベルトの自然放射線源にさらされているとの解説を加えています。

この自然放射線の被ばくによって健康に影響があるかどうかについては確実なことはまだ分かっていないとしつつも、ICPRの提言では、日常的な状況の年間線量限度は自然放射線量に加えて、放射線業務従事者は20ミリシーベルト、一般市民は1ミリシーベルトに定められており、原子力事故が発生した地域で住み続ける人の限度は、基準値である年間20ミリシーベルトであることも紹介されています。

被ばくに対する考え方や被ばく量の限界値については諸説あり、以上のような内容に対して異論を持つ人もなくはないでしょうが、この記事はあくまで政府の見解に沿った考えを持つ人の見方を中心に構成されている意見記事であることも見逃してはならないでしょう。