諸刃の剣? 抗ウイルス剤の光と影

エボラ出血熱の恐怖 1か月で死者倍増

2014.9.9 

 デング熱流行の陰に隠れて登場する機会は少ないようですが、世界的には、もう一つの感染症「エボラ出血熱」の方が危機感を持って迎えられています。

コンティジョンcontagion”

これは殺人ウイルスの世界的拡散をテーマにしたスティーブン・スピルバーグ監督の映画のタイトルですが、contagionは「接触感染」の意味だそうです。

エボラ出血熱は地球、特に今回の流行地であるギニア、リベリア、シエラレオネ、ナイジェリアなどは、今まさにこのテーマを地で行くような「エボラ出血熱」の恐怖にさらされています。

 WHO(世界保健機関) は8月1日、西アフリカ諸国で猛威を振るっている「エボラ出血熱」について、「人命損失は壊滅的な規模になり得る」との深い懸念を示し、「制御しようとする我々の取り組みよりも進行が速い」とする見解を上記国の首脳に対して述べたのです。

 国際医療団体「国境なき医師団」も15日、現状を「戦時」と表現し、感染拡大の制御に今後6か月はかかるとの見通しを示しました。

エボラ出血熱による死者数が2105になり、89日時点の死者1013人から1か月足らずで倍以上に拡大した事態に、WHOは9月5日、「感染拡大が早すぎて、対応が追い付いていない」と危機感を募らせたコメントを公表しています。さらに今後半年で2万人を超える感染者が出る可能性すら示唆されています。

医療関係者も240人以上が発症、120人以上が死亡して医療現場は悲惨な状況となっており(828日、各紙)、各国は検疫の強化や航空機の乗り入れ制限などの対応策を講じているものの、検疫の限界もあって拡大防止策の効果は限られているようです。

エボラ出血熱は、1976年にザイール(現コンゴ民主共和国)とスーダン共和国で最初に報告されましたが、この初発例がエボラ川のほとりであったことから「エボラ熱」と名付けられたものです。

今年2月にギ二ア南部から隣国リベリア、シエラネオネに拡大した今回の流行は、過去最悪の感染拡大の様相を呈しています。従来は地方での流行が中心となっていたものが、今回は都市部への拡大という特徴が見られ、人やモノが国境を越えて動くというグローバル化が、西アフリカのみならずミャンマー、ベトナム、タイなど東南アジアにまで感染拡大を進めているのではないかという懸念が出始めています。

エボラ出血熱はインフルエンザのような飛沫感染infectionではなく、主として患者に直接接触したり、感染した野生動物(大型コウモリやサルなどのbushmeat)の死体に触れるか、調理、喫食することにより感染する(contagion)ことから、日本人旅行者が現地で感染し、帰国後に国内でそれを広めるという可能性は低いものと考えられています。

温暖化に伴う気候変動によって干ばつや異常な雷雨、洪水などの異常気象が頻発し、人間が森林伐採や農地拡大などによって野生動物の生息地に踏み入れるなどの環境破壊を進めた結果、エイズやエボラのような本来は動物を宿主とする病原体が、ヒトに新しい感染症を引き起こすことになったのではないかと考えられています。

これら新しい感染症の世界的拡大が地球温暖化と軌を一にしていることに疑いはなく、清潔な水の確保困難、流行拡大による農耕の縮小がもたらす飢餓など、劣悪な衛生状態や貧困が感染の拡大を助長していることは紛れなき事実と言えるでしょう。

 エボラ出血熱にはワクチンや確実な治療法がなく(有望視される2種類のワクチンは早ければ11月にも使用開始予定)、致死率も5090%と極めて高いところから、一度流行に火が付くと止めようもないという難題を抱えています。

しかし、ロイター通信は8月19日、米国製薬会社が開発中の未承認治療薬でWHOも条件付きで承認した「ZMapp」の投与を受けた3人のリベリア人医師らが「目覚ましい回復の兆しを示した」ことから、希望が持てるとも報じています。

 わが国で開発された抗インフルエンザ薬「アビガン」(一般名 ファビピラビル)もエボラ出血熱にも有効ではないかと期待されており、政府もWHOから要請があれば提供する用意がある旨(8月25日、菅官房長官談話) の発表をしています。

 期待のかかるこの新薬は開発の歴史も古く、動物実験での抗インフルエンザ作用もタミフルより効果が高いことも確認済で、本年3月24日付で厚労省医薬食品局審査課から効能(効果)の承認を受けています。ただ、臨床試験の成績が限定的であることや、副作用としての催奇形性、対象となるインフルエンザ型が限られたものであること、妊婦には使用禁忌であること、性交渉での留意点などの課題も少なくなく、国内での流通は期待できない等の多くの難点をかかえている薬剤なのです。

 エボラ出血熱に対する効果が未知数な上、上記のような課題も少なくないこともあって、WHOは9月5日、回復した患者の血清を使う治療を優先課題とする(回復した患者の血液に含まれる抗体を輸血などで別の患者に注入)方針を決めたのです。