母乳を巡る様々な話題

完全母乳へのこだわりの是非

2015.8.11

 8月1日は「世界母乳の日」、8月の第1週は「世界母乳育児週間」で、日本でも、8月1〜2日には母乳育児シンポジウムが名古屋市で開催されました。

 世界母乳の日は、WABA(世界母乳育児行動連盟)が、1992年にWHO(世界保健機構)UNICEF(国連児童基金)の援助のもとに定めたものです。

母乳育児は感染症に対する赤ちゃんの抵抗力を高め、乳幼児期の知能と身体の発育に必要な最適な栄養を与えます。

医学専門誌ランセットは2008年、母乳育児を受けてない子供は、完全母乳で育った子供よりも生後6ヵ月で命を落とす割合が14倍も高いという事実を明らかにしていますが、生後半年まで完全母乳育児を行う母親の割合(母乳育児普及率)は依然低く、2010年でも39%にすぎません。

 このところ母乳、特に完全母乳(完母)をめぐる話題が少なくありません。

母乳の飲ませ方や授乳指導の課題も含め、出にくいのに母乳にこだわり過ぎる弊害や母乳地獄という現実、母乳と人工乳の折り合いをどうつけるかについても甲論乙駁で結論が出そうにもありません。

WHO(世界保健機関)とユニセフは「母乳育児を成功させるための10カ条」を公表し、この10ヵ条に沿って「日本母乳の会」が認定する「赤ちゃんにやさしい病院(BFH)」も国内で72施設になっています。

母乳の出が悪い母親のために、別の女性の母乳を専用施設で低温殺菌処理して提供する「母乳バンク」の需要が高まっています。

欧米での整備が進んでいる母乳バンクですが、わが国での対応は遅れ気味で、早産児などのために安全な母乳を提供するシステムの整備も求められています。

母乳バンクの必要性が高まる一方、インターネットでの「偽母乳」の販売が問題になっており、少量の母乳に粉ミルクと水を加えただけで栄養分は通常の母乳の半分程度、細菌に汚染されている「偽母乳」も少なくないようです。

また、人工乳の成分が含まれているため、ミルクアレルギーの乳児に使用するのにも注意が必要でしょう

こうした衛生管理状況が明らかでない粗悪な「母乳」が出回っている実態に対して、厚労省は7月3日、全国の自治体に注意を呼びかける通知を出しています。

中国では、かつて特権階級が良薬として母乳を服用したとも言われ、最近でも裕福な男性が疲労からの回復や手術後の養生を目的に自分専用の「乳母」を自宅などで雇うとか、出産直後の女性から母乳を買って栄養補給に充てるケースがあると報道されています。これら富裕層向けとは別に、ポリ袋詰め母乳が200_g数十元で売られて母乳の出の悪い母親の用を足しているとも伝えられています。

 毎日新聞は「母と乳」と題する「母乳」について、5回にわたるシリーズ記事を報道しています(7月9〜16日)。

 記事の中では、産婦人科の母乳外来・助産師外来、地域の助産院の現状についても紹介されていますが、母乳育児について学べる場所が不十分な実態が問題視されてもいます。

報道の最終回で前川喜平・東京慈恵医大名誉教授は、「情報過多の現代において『できる範囲でやれば、子どもは育つ』。発育は母乳かミルクかではなく、『子を育てようという気持ちと周囲の支援』」、母乳かどうかよりも親の気持ちが重要と締めくくっておられます。

 完全母乳保育のもう一つの課題は「ビタミンD不足によるクル病」です。

ビタミンD不足からカルシウムの骨への沈着が悪くなり、骨が柔かくなってO脚などの骨の変形や成長障害を来すのが「クル病」で、乳幼児での増加が懸念されているのです。もともとビタミンDが不足しがちな母乳、有害な紫外線に過敏になりすぎて日光浴を控えるために引き起こされるビタミンD不足、アレルギー疾患への懸念から過剰な食事制限をする、これらがあいまって引き起こされるケースが少なくないのではないかとも言われています。