食中毒の季節が近づいてきました

2016.4.12

薄紅色から新緑の世界へ、花冷えをしのぐぽかぽか陽気の季節がやってきました。潮干狩りや野山に出かける機会も増え、魚介類や野草を食べて(あた)ったという記事も目立ちます。細菌性の食中毒ならともかく、加熱したから安心と思うのは早計で、食材内の毒や化学物質による食中毒では避けようはありません。

これからは食中毒が多くなる季節ですが、温暖化で夏の訪れが早まった近頃は5月でも高温多湿になる日も多く油断できません。

食中毒を防ぐ三原則は、「菌をつけない、増やさない、殺す」につきますが、思わぬ落とし穴にはまることも少なくありません。食中毒は家庭のキッチンで発生する例も少なくないようで、とり肉をさばいた同じまな板でサラダ用の生野菜を調理することなどで起こるパターンも目立ちます。

冷蔵庫の過信も同様です。野菜くずが残された野菜室やジュースの液だれで汚れたドア裏のポケットなどは細菌の巣となるため、野菜類や肉、魚は袋に入れて保管するとか、冷蔵庫の温度は5℃以下に設定、詰め具合も7割以下にして詰め過ぎないようにするなどの配慮が求められます。

調理の際は素手を避け、ふきんやまな板には熱湯をかけて菌の量を減らすことや、電子レンジで加熱する場合も、食材の中心部を75℃で1分間加熱することが大切です。

特に弁当の調理には、使い捨て手袋や箸を用いて素手で食材に触れることを慎み、生温かい状態のまま詰めないよう心がける必要があります。加熱は菌を殺すだけではなく、食中毒菌が好む水気を切る効果もあります。さらに弁当は調理後、菌が中毒量に達する5時間以内に食べてしまう配慮も必要でしょう。

このように食中毒のリスクを減らしても、更なる落とし穴が潜んでいます。

ウェルシュ菌など加熱に強い菌の存在です。芽胞を形成して熱から身を守る嫌気性菌の一種で、カレーやシチューなど煮込み料理が冷めると、加熱により水に溶け込んでいた酸素が気泡とともに除去されてウェルシュ菌の繁殖に好都合な嫌気状態になるため、繁殖し始め芽胞を破って細胞分裂〜増殖し、食中毒の原因となると紹介されています(3月4日、産経新聞)

「食中毒」はなにも細菌によるものばかりではなく、以前にもこの欄で紹介したことがある貝に蓄積されている「貝毒」、フグのような魚が持っている神経毒、毒キノコなど、加熱しても毒性が弱まることのないタイプもあることから、加熱したからといって安心できない場合も少なくありません。

貝毒、中でも「マヒ性貝毒」は呼吸困難をもたらすばかりか、フグ毒のテトロドトキシンに匹敵する毒を持ち生命の危険を招くことがあるようです。ここ数年、大阪湾ではアサリやトリガイなどの二枚貝から貝毒が検出されるケースが増え、貝漁業者がピンチに立つやら潮干狩りが敬遠されたりと、思わぬとばっちりが広がっていることは既に紹介したことがあります。

鮮度の良くないサバやイワシなどの魚を食べて30分ぐらいで顔や口の周りが紅潮し、口唇や舌のピリピリ感、蕁麻疹などの症状が出たときは、「ヒスタミンによる食中毒」を疑う必要があります。ヒスタミンは魚肉に含まれるヒスチジン (アミノ酸の一種)が、モルガン菌などの細菌によって分解されてできる化学物質です。

化学物質のヒスタミンは加熱しても壊れず、冷蔵・冷凍保存された魚は大丈夫とはいえ、常温保存、解凍後に常温で放置されたもの、照り焼きするために調味液に漬け置きされたままの魚などの場合、ヒスタミンが増えることによって食中毒の原因となります。

細菌ではありませんが、魚の筋肉に寄生する「クドア:粘液胞子虫 Kudoa septempunctata」による新しい食中毒も知られるようになってきました。

激しい下痢・おう吐で発症するクドア食中毒は、かっては謎の食中毒と言われ、ヒラメやマグロなどの刺身を生食して数時間程度で生じ比較的短時間で軽快する予後良好な疾患ですが、クドアが原因と同定されるようになったのは2010年と新しい病気なのです。

このように原因不明の食中毒の原因が新しく同定されることもあるわけで、食中毒を起こした病原微生物が分からなくても未知の生物が犯人というケースも少なくないとも言えましょう。