抗生剤が効かなくなったら ?

2016.6.7

 「カゼは自然に治るもの」 本年3月1日の本欄のテーマです。

カゼに対する抗生物質の安易な使用の問題点を取り上げたものですが、乱用とまでは言わないものの、抗生物質の多用によって複数の抗生物質でも効かない「多剤耐性菌」が世界中で猛威を振るうようになってきました。

この記事のなかで、耐性菌の出現は医療での抗生物質乱用だけが問題ではないこと、CDC (米疾病対策センター)の推計では米国で年間200万人の耐性菌感染者があり、そのうち死者は2万3千人に上るというデータにも触れました。

2050年には耐性菌による死者が年間1千万人になりそうだとの予測もあり、WHO抗生物質の処方を最小限に抑えるよう医療従事者に勧告を出すとともに、一般の患者に対してもほかの人と抗生物質を分け合ったり、以前に処方されて残っていた薬を服用するのは避けるべきと発言(2014年4月)

このように感染症対策は世界的課題であり、WHOは「極めて深刻な状況」と強調し、耐性菌に対する早急な対策を各国に求めるとともに、昨年5月の総会では耐性菌対策に関する行動計画策定に向けた議論が行われました。

2014年にアフリカで発生し1万人以上もの死者を出した「エボラ熱」など、新しい感染症の急激な拡大に備えるシステムが整備されてなかったという反省から、流行国への迅速な資金援助が可能となる仕組みが求められていたのです。

政府は、先の主要国首脳会議(G7伊勢志摩サミット)に備えて、国際社会として貧困・飢餓撲滅を目指す「持続可能な開発目標(SDGs)」の実現に向け、難民対策を含む中東地域の安定化と、感染症防止を含む保健分野への支援として総額71億j(7800億円)を拠出する方針を表明しています。

G7(主要7ヵ国)と世界銀行は「感染症対策の基金」を立ち上げましたが、この基金に3年間で5000万j(55億円)を拠出すると麻生財務相が表明して国際貢献をアピールしました。

政府は4月1日、「薬剤耐性菌」の拡大を防ぐための初の行動計画を公表。「抗菌薬の使用量を2020年度に現在の3分の2」へと減らす数値目標を盛り込み、急性上気道感染症などカゼの外来患者に対する抗菌薬処方の規制も検討するなど、抗菌薬の乱用防止のためのガイドライン策定に舵を切ったのです(42日、毎日)

2010年の帝京大学病院における多剤耐性菌事件以来、多剤耐性菌に対する認識は改まったとはいうものの、新薬開発の成功確率は3万分の1で天文学的な研究費が必要な上、特許切れで後発薬が登場すれば採算性が一気に悪化することから製薬会社の新薬開発意欲も削がれて、新規の抗生物質はもう登場するまいとも言われています。

抗生物質乱用―多剤耐性菌登場のイタチごっこの行き着く先の袋小路「ポスト抗生物質時代」に向かってわれわれは追い込まれようとしていることを自覚すべき時なのではないでしょうか。