新型インフルエンザワクチン 打つべきか打たざるべきか?

 

                                                 09.9.1

新型インフルエンザワクチンには、解決すべきいくつかの課題が残されているように思われます。

全国民に接種できるワクチン必要量の確保有効性や副反応の評価、更には誰から接種するかという優先順位などです。

今の情勢から見ると、接種予定5300万人分の必要量に対して国産品だけでこれをまかなうことはできず、不足分を輸入に頼ることになりそうです。

国産品は従来の季節性インフルエンザワクチンと同じ製法とはいえ、副反応も同様と考えるのは早計で、安全性についての疑問が消えない点は否定できません。

というのも、新型ワクチンについては、過去に不幸な経験があったからです。

 

1976年1月、米国ニュージャージー州フォート・ディックスの陸軍訓練基地内で原因不明の熱病が流行し、19歳の二等兵が死亡。これがH1N1ブタ型インフルエンザであることが分かり、当時のフォード大統領は流行拡大を阻止するため、10月に全国民への新型ワクチンの接種に踏み切りました。

 ところが接種を受けた人々のうち500人以上にギラン・バレー症候群(四肢の運動・知覚麻痺をおこす神経系疾患。先日他界された女優の大原玲子氏が罹患したことで話題になった病気)を発症する例が続発、その上30人以上が死亡したために12月、4500万人が接種を受けた時点で急遽中止されました。

幸いにしてこのブタ型ウイルスによるインフルエンザの流行は起こらず、1人の兵士の死と多額の国家賠償金支払いという事実を残して終焉したのです。

米国以外の、ブタウイルスはヒトには広がらないという立場をとる国々ではこの政策に批判的で、わが国でも20万人分のワクチンが準備されたようですが、実際、フォート・ディックス以外に拡がることはありませんでした。

なぜ拡がらなかったのかはナゾのままです。

フォート・ディックス事件は、ブタインフルエンザがヒトに集団感染を起こした稀な例で、今回のH1N1型は2例目の騒動ということになります。ブタのインフルエンザはヒトには感染しても、不顕性(感染しても症状が顕れない状態)に終わることも少なくないようです。

 

 このように新しいワクチンには、有効性と副反応の強さに関して不透明な部分が少なくなく、タミフルやリレンザなどの抗インフルエンザ剤での対応が不可能でもない状況において、広範なワクチン接種を急ぐ必要性があるのかどうか疑問視する意見もみられます。拙速の批判を受けないような配慮が必要でしょう。

とりわけ今回輸入が予定されているワクチンについては、最初、薬事法で義務付けられている安全性確認などの治験を免除した特例承認を適用して接種に踏み切ろうというのが厚労相の考えでした。意見交換会での専門家の指摘を受けて、27日には「安全性を確保したい」として治験を実施する方針が明らかにされています。 

スイスの大手製薬会社ノバルティスは9月中にも、独自に日本で、健康成人200人、小児120人程度を対象とした新型インフルエンザワクチンの臨床試験を開始する旨を発表しています。(8月29日、日経)

米国では、これまでに7963人が入院、死者は522人に達していますが、これは氷山の一角と考えられています。 さらに、米CDCは、5〜14歳の子どもは60歳以上の高齢者に比べて14倍も新型インフルエンザへの感染率が高いと報告しています。

米国アレルギー感染症研究所(NIAID)は、8月初旬に開始された成人対象のワクチンの初期試験において、最適ワクチン量と接種回数についての検討を加え、その結果、ワクチンの安全性の証明と重篤な副作用がないことが示されたと公表。引き続き「6ヵ月〜17歳の小児」を対象とした試験を継続した上で、9月及び10月に用量が判明するといわれています。

 

 わが国ではワクチン不足が懸念されるなか、接種の優先順位は重要な問題となりつつあります。

接種優先順位に関して米国や英国などでは、もっとクリアカットに結論付けられて社会的承認を得ているようですが、わが国ではどうも及び腰で国民的議論の対象とすることに後ろ向きなように思われます。

1997年に香港でH5N1型インフルエンザが流行した時にも、タミフルの投与やワクチンの優先順位は議論されていたのですが、社会的な混乱を招くということで大々的には公表されませんでした。すでに確立された案があってしかるべきなのでしょうが、今頃になっても最終案が決まらないのもおかしな話です。

流行が爆発した時の混乱を考えるとオープンで十分な議論を経て確定された基準が示されて然るべきですが、厚労省の意見と国民の世論との乖離が大きいために躊躇いがあるようです。

厚労省が8月20日に開いた「新型インフルエンザワクチンに関する意見交換会」では、ワクチン接種は「重症化防止」を最重点に、心臓病や腎不全など持病をもつ患者さんや、妊婦を最優先対象にすることを確認。さらに、舛添厚労相は25日の閣議後の会見で、感染者の目立つ小中高校生(1400万人)と高齢者(2100万人)の分も確保する意向を表明しています。

最終的な接種優先順位は9月には発表される予定になっているそうですが、6カ月未満の乳児の保育に関わるお母さん方や関係者も接種するのが望ましいでしょう。