ポリオ と 天然痘

                                                       

 ポリオも、天然痘も、現在の日本からは姿を消してしまった病気ですが、注目されている感染症の一つでもあります。

 なぜ注目を浴びているのでしょうか?

 天然痘は、種痘の推進によって地球上から撲滅された感染症ではありますが、1980年のWHO(世界保健機関)による絶滅宣言後も、ウイルスだけは米アトランタとモスクワの二ヶ所の研究機関に研究用として保存されてきたのです。

 この研究も93年には終了するめどがつき、99年6月には廃棄されることになりました。天然痘ウイルスは患者の体内でしか生きられないので、新たな患者が発生しない限り、自然界からは消滅することになる筈でした。

 しかし同年5月のWHO委員会審議でウイルスの廃棄延期を認める決議案が可決されたのです。

「不法に隠匿されたウイルスが悪用された場合には、抗ウイルス剤の開発やワクチン製造など対抗できる手段として必要」とか、「遺伝子研究などを通じて、ガンなど他の病気の解明に役立つ可能性が残されている」という主張に従ったことになります。

02年までに米露両国のウイルスも廃棄する方針が決められていましたが、01年10月、世界貿易センタービル爆破テロから1ヶ月後の悲劇の街ニューヨーク、追い討ちをかけるように、「炭そ菌」が市民を恐怖に陥れ、世界各国はこの新たな「バイオテロ」に対する対策を迫られたのです。

5月28日づけ毎日新聞は、27日にジュネーブで開かれていたWHOの第59回総会は、米国とアフリカ諸国が激しく対立していた天然痘ウイルスの廃棄に関する決議案が合意に至らず、来年1月の執行理事会で改めて協議することになったことを報じています。

 ポリオ(急性灰白髄炎)は、昭和36年以前には年間1,000人を超える患者さんが発生したという病気でした。

しかし、経口生ワクチン(OPV)の普及により、昭和55年には野生のポリオウイルスは根絶されたのでした。

 ここで「野生の」とお断りしたのは、経口生ワクチンの使用により、数百万人に1人の割合で被接種者にポリオ麻痺が出たり、ワクチン接種を受けた子どもの便を介する二次的な感染から、家族などに、数百万人に1人の割合でポリオ麻痺が発生するというワクチン接種に伴う被害が認められることがあるからです。

 このような過ちはあってはならないことなのですが、経口ワクチンの限界と言えるもので、平成15年3月には、「ポリオ麻しん検討小委員会」という組織が、ポリオ不活化ワクチン(IPV)の早期導入の必要性と二次感染者に対する救済制度の創設を提言し、平成16年度には、「ポリオ生ワクチン2次感染対策事業」が立ち上げられたのです。

 ワクチンとは関係はありませんが、過去にポリオに感染したことがあるものの元気に生活を送っていた人が、40−50代になって新たな筋力の低下や関節痛、痺れ、呼吸障害といった変調を訴える「ポストポリオ症候群」に悩む人々が大勢おられることも社会問題となっています。

 発症時は軽症であった人でも、この二次後遺症に悩むことも少なくなく、軽くすくだからといって決して安心はできないのです。

 先進国の多くの国では、既にIPVが使用されていますが、わが国での導入には今しばらく時間がかかりそうで、早期の導入が望まれるところです。 

 「ポリオ根絶は現実的か?」という提言が5月12日付の米科学誌サイエンスに載り話題を集めています。

 WHOは88年からポリオ根絶計画を推進してきましたが、当初の目標である00年の根絶は実現せず、03年はやや減少したものの、04年からは再び増加傾向をたどり、根絶は困難として計画見直しの意見が出てきたというのです。

 その言い分は「ポリオの根絶を目指すだけではなく、インフルエンザ、エイズ、マラリア、肝炎、破傷風など、他の感染症を含めた総合的な対策に移行すべき」というもので、根絶計画が長引くことによる途上国当局の疲弊や予算の壁、さらには国際医療支援の全般的展開を図るには課題の多い国際情勢などがネックとなっていることが理由として挙げられています。


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