食べ物の功罪

 最近は、新聞やテレビの 「食の安全」 に関するニュースが目立ちます。

 食べ物は、われわれが生きていくのに一日たりとも欠かせないものだけに、関心が高くなるのも当然のことでしょう。

BSE(牛海綿状脳症)、残留農薬、合成抗菌剤を含んだ輸入ウナギの問題のように、食材そのものの安全性についての話題や、ある食べ物が体に良いとか、ガンの予防になるといったもの、また逆に体に害があるといった内容です。

国内初のBSE感染牛が見つかって9月10日でまる5年がたちました。これまでに見つかった感染牛は28で、今年はすでに7頭が確認されています。

 一方アメリカ産牛肉は、8月から7ヶ月ぶりに輸入が再開されて一部の牛丼屋は活況を呈していますが、拒否反応を示す国民もまだまだ少なくはないようです。

5年前、BSEの上陸に先立って、EU(欧州連合)の科学運営委員会(SSC)が出した「日本でのBSE発生の危険性評価」や、02年4月に[BSE問題に関する調査検討委員会」がまとめた報告書に対する農水省の対応は決して的確なものとは言えなかったように思われます。

国民の食の安全を護る組織として「食品安全委員会」がありますが、これはBSE対応の拙さへの反省から、「食の番人」として3年前に内閣府に創設されたものです。

安全委の独立性や、BSEに関する諮問とあいまい決着の背景にある科学的評価の妥当性に関して、一部の人々から疑問の声が上がっているのは反省材料の一つでしょう。

 国内で消費されるウナギの8割は輸入に頼っており、その9割が中国産ということです。

 05年8月に大阪と神戸で、中国産のウナギからわが国では使用が認められていない「マラカイトグリーン」という抗菌剤が検出されたため、それ以降、検査基準が強化されました。

 さらに今年の5月29日には、「ポジティブリスト制度」といって、一定以上の農薬の残留成分や動物性医薬品が含まれる食品の流通が禁止される制度が導入されたために、中国からのウナギの輸入が減ってしまったということです。

その影響もあってかウナギの店頭価格が2−3割も上昇し、土用の丑の日が騒がしかったことは記憶に新しいところです。

02年に、中国産の冷凍ホウレンソウから残留基準値を超える殺虫剤(クロルピリホス)が見つかったのをはじめ、同じく02年8月には中国産マツタケから基準値の約28倍の残留農薬が、04年には漢方薬の原材料になる生薬から残留農薬が検出されたこともあって、「無農薬」、「減農薬」の農産物を求める声が高まってきています。

これら残留農薬に対する日本側の規制強化への対抗措置として、中国は高級化粧品SK-Uの販売を禁止し、8月には日本産の冷凍タコや魚肉ソーセージなど約30品目からヒ素などが検出されたことを公表して管理の厳格化を求めるという報復行動に出たために、この問題をめぐる両国間の摩擦激化は避けられそうもありません。

ポリフェノールやリコピンなどに含まれる抗酸化物質が、ガンや糖尿病、動脈硬化を防ぐと聞いてすぐに飛びつく人も少なくないようですが、残念ながら、どの程度食べればガン予防に効果があるかというレベルまでには研究は進んでいません。

どうやらガンになるリスクはその食品を多く摂ればとるほど下がるという単純なものではなさそうです。

このような発想を進めたものの一つに「サプリメント (健康補助食品) があり、わが国では急速に普及してきています。

しかし、効果には個人差があることや、摂りすぎなどで逆に健康を害するケースも少なくはないようです。

健康食品にガンを抑える作用があるのかないのか、厚生労働省では06年春に研究班を立ち上げて、サプリメントの抗がん作用の検証に乗り出しました。

サプリメントについての疑問や不安に応えるために、東京女子医大と大阪大学には「補完医療外来」が設けられています。

 食材に関するこのようなマイナスイメージとは反対に、色々な食べ物がガンの予防に役立つことが次々に発表されるという明るい話題があることにも注目しておかなければなりません。

しかし、どれだけ信用できるかが問題で、何年か経つと全く反対の意見が出てきて戸惑うことがよくあります。

ある食べ物のガン予防効果が学会で発表されたりすると、マスコミが(こぞ)って取り上げるため世間の注目を浴びることが少なくありません

単なる学会発表ではなく、権威ある専門誌に採用された論文とか、無作為化比較試験など批判に耐えうる研究、さらには複数の追試で効果が確認された事実のみを信用する態度がまず求められるでしょう。

 この9月には、カルシウムが大腸がんのリスクを約3割も軽減することが九大の疫学調査で明らかにされるといったニュースもありました。

 この調査は、1日のカルシウム摂取量に応じて5グループ分けした各群の発病の危険性を比較したもので、最も少ないグループ(約500g以下)の危険性を1とすると、最も多いグループでは0.68だったということで、カルシウム800cは牛乳約0.8gに当たることも紹介されています。

 そのほかガンや動脈硬化の予防など、健康に役立つ食べ物について明らかにされた事例を並べますと、

(1)     胃がんの原因ともなるピロリ菌に対して、LG21乳酸菌、茶のカテキン、ココア、もずく等が感染抑制効果を示す。

(2)     ココア、緑茶カテキン、赤ワイン、大豆イソフラボンなどに含まれるポリフェノールに、動脈硬化の原因となる悪玉コレステロール(LDL)の酸化を防ぐ抗酸化作用がある。

(3)     大豆イソフラボンには動脈硬化防止作用だけではなく、大豆摂取量と女性の乳がん、男性の前立腺がんによる死亡率が反比例するという効果も確認されている。

 しかし反対に、心臓病に予防効果なしとする米国心臓協会の発表や、06年5月に食品安全委員会が示した、イソフラボンの過剰摂取が「健康に与える影響を否定できない」 から 「食事以外の1日の上限摂取量を30r」 とした指針は既にお知らせしたとおりです。(06年2月14日−大豆イソフラボンの功罪−)

(4)     白米をそのまま食べるよりも、すし飯のように酢を混ぜて、あるいは乳製品、大豆製品と一緒に食べると、血糖上昇作用を示す指数GI)値を下げ、食後の血糖値の急上昇を抑えることが可能となり、糖尿病患者の血糖コントロールを改善できる。

(5)     マイタケなどのキノコ類に含まれるβ-グルカンは乳がんや前立腺がんの進行を抑制する。

(6)     ホウレンソウやカボチャなど緑黄色野菜やレバーに多く含まれる葉酸や、レバー、イワシ、アサリなど魚介類に多いビタミンB12は肺がんを予防する。

(7)     緑黄色野菜に含まれるβ-カロチンは体内物質の酸化を抑え、免疫力を高めてガン抑制に効果を示す。

緑黄色野菜をほとんど食べない人が胃がんで死ぬ危険率を1とすると、毎日食べる人は0.7以下になる。

 野菜、果物は少なくとも1日400cは摂るように心がける。

フィンランドの喫煙者を対象にしたβ-カロチン投与実験では、肺がんにかかる率が18%も高くなるという全く逆の結果が出たが、これはβ-カロチンの投与量が過剰であったためで、摂りすぎは返って逆効果になる。

(8)     緑茶に含まれるカテキンにはガン抑制効果や、血管機能を損なう活性酸素の働きを抑制する働きがある。

(9)     マグロやイワシに多く含まれるDHAなどの不飽和脂肪酸には狭心症や心筋梗塞などにかかるリスクを最大4割下げるほか、乳がんにかかるリスクを4割以上も抑制する。

さらにDHAには、脳を活発化させて学力を向上させる効果もみられ、子どもがキレる事をも抑制することさえ期待できる。

(10)コーヒーを良く飲む人には糖尿病になる人が少ないことが知られており、成分のカフェインとクロロゲンが複合的に働いてインシュリン感受性を高めているものと考えられる。

   カフェインには、脂肪を分解する効果やエネルギー消費を高めてダイエットに役立つという働きも期待できる(?)。

また1日2、3杯のコーヒーは、胆石になる危険率を40%も抑制するという報告もある

以上のようなガンや動脈硬化といった話は大人の問題と考えられがちですが、小さいときの食生活や嗜好が生活習慣病の素地を作ることは間違いありません。「食育」の大切さが叫ばれるのはこういった事実に基づいているのでしょう。

食べ物と健康に関する知識を子どものときから教えこみ、病気の予防と健康づくりに取り組むことが大切なのではないでしょうか。


戻る